なぜポアンカレ予想が解けたのか『完全なる証明 ー 100万ドルを拒否した天才数学者』
2000年5月、アメリカのクレイ数学研究所は、数学における7つの未解決問題に100万ドルの懸賞金をかけた。7つの問題とは「ヤン=ミルズ方程式と質量ギャップ問題、リーマン予想、P≠NP予想、ナビエ=ストークス方程式の解の存在と滑らかさ、ホッジ予想、ポアンカレ予想、バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想」で、それぞれ最初に証明した者に賞金が支払われる事になっていた。
2002年11月、数学者グレゴリー・ペレルマンはポアンカレ予想の証明をインターネット上に公開し、世界を騒然とさせた。専門雑誌に論文を発表せず、証明に対する検討や論評も拒否し、世界中の一流大学からのポストの申し出も断り、フィールズ賞を辞退した。クレイ数学研究所の賞金も受け取らず、ペレルマンは数学界から姿を消したのだ。
『完全なる証明』の目次
序章 世紀の難問を解いた男第1章 パラレルワールドへの招待第2章 創造への飛躍第3章 天才を育てた魔法使い第4章 数学の天使第5章 満点第6章 幾何学の道に第7章 世界へ第8章 アメリカでの研究第9章 その問題、ポアンカレ予想第10章 証言現る第11章 憤怒第12章 完全なる証明
なぜペレルマンはポアンカレ予想が解けたのか。そこには本人の厳格な性格や天賦の才能など様々な要素があるが、大きな要因の一つとして、ペレルマンが10歳の頃に通っていた数学クラブの教育方針が挙げられる。
通常、学校や塾の教室では、先生が前に立ち生徒に答えを発表させるが、それは「誰かが最初に正解を出したところですべてが終わる」ことを意味する。それに対してペレルマンの数学クラブでは、先生と生徒が一対一で向き合い「その子の成功と、障壁と、失敗を語らせる」のが方針だった。つまり「考えること」を教えたのだ。
『完全なる証明』は、そんな教育環境やユダヤ人であるペレルマンの生い立ちを丹念に描いた物語。スターリンの粛清やゴルバチョフのペレストロイカの影響、ソビエト連邦のユダヤ人に対する差別、さらにポアンカレ予想の概要や数学の本質、そしてペレルマンの偏向を丁寧に掘り下げている。
著者のマーシャ・ガッセンは結局、ペレルマン本人にインタビューする事はできなかったそうだ。それにも関わらず臨場感があるのは、著者がペレルマンと同じ数学コンテストに出場していた事と、同じユダヤ人である事が影響しているのだろう。
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