読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

写真の力に圧倒される『ピュリツァー賞受賞写真全記録』

Book

20140506224149写真は一瞬で時代を切り取る。

1961年にピュリツァー賞を受賞した写真「舞台上での暗殺」 は、社会党書記長の浅沼稲次郎が日本刀で刺殺される瞬間が収められた。1991年の「南アフリカの抗争」では人が炎に包まれる瞬間が収められ、2002年の「世界貿易センターへのテロ攻撃」では飛行機がビルに突撃する瞬間が収められた。

写真は時に、負の感情も呼び起こす。

1977年の「バンコク路上の暴力」では木に吊るされた死体の隣りで子供が笑い、1995年の「ルワンダの死の村」ではベッドに横たわる人の死体に虫が群がり、1996年の「ケニアの通過儀礼」では女性のクリトリスがカミソリで切除される姿が収められている。

写真は時に、人生を狂わせる。

1994年の「ハゲワシと少女」のカメラマンは子供を救わなかったと非難され、ピュリツァー受賞した三ヶ月後に自殺した。2008年の「日本人ジャーナリストの死」は、ミャンマーの紛争で銃撃されたカメラマンが収められている。

たいていの場合、すぐれた写真というのは、ある日のまれに見る幸運や、ちょっとしためぐりあわせの産物などではない。ある日突然、歴史的瞬間が訪れ、ライカかニコンのレンズに収まった、というようなものではないのである。むしろ、すぐれた才能に恵まれた人の、絶え間ない努力と、きわめて周到な準備と、並々ならぬ犠牲のたまものなのである。

ピュリツァー賞の歴史はカメラの歴史でもある。

1950年代まで主流だったスピードカメラは撮影するのに時間がかかったため、決定的瞬間を捉えるのが難しかった。60年代からは35ミリカメラが普及し、瞬時に撮影できるようになった。この頃からニコンやキヤノンなどの日本メーカーが台頭する。

80年代に写真はモノクロからカラーへ、90年代後半にはアナログからデジタルへ進化した。デジタル化されことで撮影した写真が瞬時に全世界に配信されるようになった。いつかスマートフォンで撮影した写真がピュリツァー賞を獲る日が来るかもしれない。

写真とは、写真家の頭脳から始まり、フィルム 〜今やデジタル・チップ〜 に到達するまでのプロセスである… 直感、洞察力、撮影技能、視覚的な認識力、テーマのもつ雰囲気やテーマへの理解を視覚的に表現する能力、といったもののすべての総合的な結果なのだ。

ピュリツァー賞受賞写真全記録』には、1942年から2011年までの全受賞写真が掲載されている。全ての写真にカメラの機種やシャッタースピードなどのキャプションがあり、全ての写真に解説文がある。撮影された背景やカメラ技術の解説など、読み応え十分な文章だ。

だが、やはりテキストよりも写真のほうが圧倒的に情報量が多い。今回の記事のように『ピュリツァー賞受賞写真全記録』の迫力を文章で表現しようとしても、ここに戦争で傷を負った子供の写真を一枚載せるだけで、テキストは一瞬にして脇役になる。

「ハゲワシと少女」を載せれば構図に感動し、「バンコク路上の暴力」を載せれば吐き気をもよおすだろう。「舞台上での暗殺」を見ると恐怖し、「世界貿易センターへのテロ攻撃」を見ると記憶が蘇るはずだ。

写真には見る者を一瞬で圧倒する力がある。

ピュリツァー賞受賞写真全記録(日経ナショナルジオグラフィック社)Amazon / 楽天ブックス / 楽天Kobo


関連記事