人生の扉が開く『宇宙の扉をノックする』
宇宙について考えると不思議な感覚に包まれる。地上に立つ自分、空から見た自分、日本の地形、月から見た地球、太陽系の地球、無数の銀河、そして膨張する宇宙。人間は宇宙のスケールで見ると極めて小さい存在だ。なのに恋や仕事に一喜一憂し、人生を送っている。
リサ・ランドールは米国の理論物理学者。3次元宇宙の外に別次元=5次元が存在する可能性を数式で示し、世界中の物理学者を驚かせた。2007年には米タイム誌で「世界で最も影響力のある100人」に選ばれ、ハーバード大学では女性初の終身在職権を得ている。
そんな彼女が書いた『宇宙の扉をノックする(原題:Knocking on the Heaven's Door)』が、ようやく日本語に翻訳された。
本書はLHCの実験内容を中心に、宇宙にまつわる既知の事実と謎を丁寧に教えてくれる。LHCとはジュネーブの地下にある大型ハドロン衝突型加速器で、全長は27kmもある。陽子ビームを高速・高エネルギーで衝突させ、未知の素粒子を発見しようとしている。原子に質量をもたらすヒッグス粒子もLHCで観測されたもので、インターネットのWEBも最初は、LHCの実験結果を世界で共有するために開発されたものだった。
なぜ素粒子を研究するのか。それは宇宙の起源を探るためだ。現在の宇宙をどんどん巻き戻すとビックバンまで遡り、原初の物質である素粒子に到達する。最も小さいスケールの素粒子を研究することで、最も大きいスケールである宇宙の起源を探ることができる。
リサ・ランドールは語る。
多くの人は、とにかく物事を直線的に進めたがる。しかし、そのやり方をしていると、ひとたび行き詰まったり、進む道がわからなくなったりしたとたん、もう先には進めなくなる。世界は一直線の道ばかりではないのだ。パズルのある部分は埋められるかもしれないが、まだ埋められない部分が出てきたら、そこはとりあえず放っておいて、あとで埋まるのを待てばいい。(中略)このやり方を支えるのが、より広い知識であり、より広い視野である。
科学だけではない。ビジネスや学業、デザインや芸術でも、物事を直線的に捉えているとなかなか良いアイデアは浮かばない。大切なのは複数の視点で思考し、集中して探求すること。自分の進む道を信じつつ、常に危機感を持って疑うことだ。
本書は宇宙の理論を私たちに分かりやすく解説してくると同時に、人生のヒントも与えてくれる。宇宙の扉をノックしたら、人生の扉が開いたような、そんな良書だった。
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