辞書を読みたいと思っていた方へ、文庫『違いをあらわす基礎日本語辞典』

20140721212819「ついに冬になった」という文は違和感がある。なぜなら「ついに」という副詞は、時間が経過した後に必ず成立する事に対してはあまり使わないからだ。この場合は「やっと」のほうが正しい。言葉は直感で選ぶ事が多いが、違いを理解し意識的に選べるようになると、文章がより豊かになるはずだ。

違いをあらわす基礎日本語辞典』は、森田良行教授が編んだ『基礎日本語辞典』から、類義語をピックアップした文庫本。『基礎日本語辞典』は通常の辞書より用例が豊富で、説明が詳しい。主体、時間、場所など、様々な角度から言葉の違いを教えてくれる。

例えば「怖い」と「恐ろしい」。

「怖い」は「恐ろしい」と相通じるが、「恐ろしい」は特定の対象に対する恐怖からくる、戦慄を覚えるような状態の客観的叙述。「怖い」はある状態・状況・場面などに接して身の危険や脅威・恐怖などを感じるが、それをうまく処理したり解消したりするすべがなく、避けられない立場にあることに由来する感情。また、そのような気持ちを抱かせる対象の状態。

「余る」と「残る」。

「余る」の場合は、必要量・許容量以上にあるから多すぎる分だけ「余る」で、少なすぎれば「余らない」。「残る」は、必要量とは関係なしに、任意に時間や量を区切り、その時点でまだ元のビンにあれば、すべて「残る/残っている」である。「どのぐらい残しておこうか」とは言えるが、「どのぐらい余しておこうか」とは言えない。「余す」は調整がきかない。

言葉の引き出しは多いに越したことはないが、引き出しの中が空っぽでは意味がない。本書は引き出しの中身を充実させるための一冊。かねてから辞書を読んでみたいと思っていた。そんな方へ。

違いをあらわす「基礎日本語辞典」(角川ソフィア文庫)Amazon / Kindle / 楽天ブックス / 楽天kobo


関連記事