極上のサイエンスミステリー『偉大なる失敗』

20150315142705今年は一般相対性理論の誕生100周年。書店を訪れるとアインシュタインの特集が目に付くが、中でもひときわ異彩を放っている表紙がある。アインシュタインが困った顔をしてたたずむ表紙だ。思わず手に取り読み進めると、これが極上のポピュラーサイエンス本だった。

偉大なる失敗』は、天才科学者の過ちに焦点を当てた本。過ちを単純にあげつらうのではなく、背景の理論を丁寧に解説し、過ちを犯す心理まで踏み込んでいるので非常に面白い。イントロからエンディングまで続く流れは、まるで一級のミステリーだ。

登場する科学者はダーウィン、ケルヴィン卿、ポーリング、ホイル、アインシュタイン

ダーウィンは自然選択を融合遺伝で説明して過ちを犯した。ケルヴィンは熱伝導率の変化を考えずに地球の年齢を計算し、ポーリングはDNAを三重らせんで解き、ホイルは宇宙を変化しないものと結論付けた。そしてアインシュタインは宇宙の膨張を予測せず、一般相対性理論の方程式に宇宙定数を加えた。

1929年にハッブルが宇宙の膨張を証明すると、アインシュタインは宇宙定数の失敗を認めて方程式からはずした。だが近年、宇宙定数は再び脚光を浴びている。宇宙がただ膨張しているのではなく、加速度的に膨張していることが分かると宇宙定数が必要になったのだ。

結果的にアインシュタインが犯した過ちは、宇宙定数を盛り込んだことではなく取り去ったことにあった。知力だけで宇宙の仕組みを解き明かした天才アインシュタイン。天才も時には悩み失敗するが、偉大な失敗は新たな理論につながる。

本書を読み終えると、表紙に写るアインシュタインが愛おしく見えるはずだ。

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