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アインシュタインがいない世界

Essay

史上最も美しい方程式といえば「E=mc2」だろう。1905年にアインシュタインが発見し、その後に実用化され世界を変えた方程式。物理学者は自然の法則をできるだけシンプルな等式で解明しようと夢見るが、その夢を具現化したのが「E=mc2」だ。

Eはエネルギー、mは質量、cは光速を表すため、「E=mc2」は「エネルギーは質量に光速の2乗をかけた値に等しい」という意味になる。光の速さは秒速約30万キロメートルにもなるため、小さな物質でも莫大なエネルギーを秘めていることになる。いまあなたの目の前にあるスマートフォンやパソコンなどの物質が、これほどのエネルギーを持っているとは信じられないかもしれない。だが、それは現代の技術力では引き出せないだけで、どんな物質でも原子の中に「mc2」のエネルギーを持っている。

それを証明したのが、原子爆弾と原子力発電だ。どちらもウランの原子核に中性子をぶつけることで開発された。中性子は電荷を帯びていないので、原子の中心にある電解の抵抗を受けない。抵抗のない中性子を小さな魚雷のように原子核に向けて打ち込むと、核分裂とよばれる破壊的な過程が誘発され、莫大なエネルギーを生み出す。

では、アインシュタインがこの世に生を受けず、「E=mc2」が発見されていなかったら世界はどうなっていたのだろう。

まず、日本は第二次世界大戦で復興できないほどのダメージを受けていた可能性が高い。アメリカはポツダム宣言を黙殺した日本に対し、広島と長崎に原子爆弾で攻撃した。原子爆弾がなければ本土決戦にもつれこみ、国土のほとんどが焼け野原になっていたはずだ。高度成長はなく、現在のように工業技術の輸出もできず、農業中心の貧しい国になっていただろう。

また、「E=mc2」がなければ原子力発電もないため、電気は火力・水力・風力などに頼っていただろう。太陽光発電にもっと期待が寄せられていたかもしれない。太陽光は大気や雲の影響を受けない宇宙空間で集めるのが最も効果的だ。だが、アインシュタインの特殊相対性理論と一般相対性理論がなければ、衛星の管理ができない。高速で移動する衛星と地球とでは、時間の進み方が違う。それを解明したのが相対性理論だ。

そもそも「E=mc2」がなければ太陽の仕組みも解明できていなかった。宇宙に浮かぶ恒星は自分自身を少しずつ切り崩し、それを物質から光輝くエネルギーに変換させて、周囲の惑星を暖め続けている。太陽も同じ原理で自身の水素を切り崩し、1秒間に原爆100万個に相当するエネルギーを生み出している。

もしアインシュタインがいなかったら、世界の情勢は大きく変わっていただろう。特に日本は全く違った風景になっていたかもしれない。歴史は必然の積み重ねだ。「もし」はない。だが、「もし」を考えることで気づく現実もあるはずだ。

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