今そこにいる奇跡

これを読んでいる人は、コードと聞くとアプリケーションを作るプログラミング言語や、ウェブサイトを構築するCSSを思い浮かべるかもしれない。だが、実はあなた自身の身体もコードでプログラムされている。人間だけではなく、地球に存在するすべての動植物は、たった4文字の記号でコーディングされているのだ。

人間の身体には約60兆個の細胞があり、ひとつひとつの細胞に同じ染色体が入っている。染色体は種によって数が決まっており、例えば犬は78本、イネは24本で、私たち人間は46本だ。46本の染色体は2本セットで合計23の対になっており、一方は父親、一方は母親の染色体がそのまま受け継がれている。

ダーウィンは進化の仕組みを解き明かしたが、遺伝の仕組みについては誤った考え方をしていた。遺伝の情報は世代を重ねるごとに薄くなると考えていたのだ。実際はメンデルが検証したように、遺伝子はそのまま受け継がれる。親は祖父母の染色体をそのまま受け継いでいるため、子供に隔世遺伝する。

染色体を拡大すると、らせん状に回転した2本の鎖が見える。2本の鎖は縄かけ梯子のようになっており、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)という塩基でつながっている。縄かけ梯子になっている理由は複製のためで、アデニンはチミンと、グアニンはシトシンと必ず対になるため、片方の鎖があれば塩基の並び順が決定できる。2本の鎖は遺伝子をコピーするタイミングで分裂するのだ。

1本の鎖には約30億個の塩基が並んでおり、その順番が個人の特徴を決めている。30億のうち約95%はジャンクと呼ばれていて、今のところ意味のないコードだと考えられている。個人を形成する塩基は30億のうち約5%で、AGCTTCAGAC...といったように1億5千万の塩基が連綿と並び、あなたをプログラムしている。

137億年前に宇宙が誕生し、46億年前に地球が産まれ、38億年前に原始の生命が誕生した。絶滅と変異と遺伝を繰り返し、延々とコーディングされた結果あなたは今そこにいる。

奇跡としか言いようがないではないか。


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