Book-サイエンス

考え抜く力『種の起原』

科学関連の本を読んでいるとダーウィンの名前が頻繁に登場する。生物学に限らず、宇宙学や脳科学など様々な分野でダーウィンが引用される。なぜならダーウィンは、種が個々に創造されるという既成概念を打ち破り、自然選択という理論で生物の起源を解明した…

エウロパに地球外生命を夢見て

地球のような惑星は宇宙に100億以上あると言われているが、私が生きている間に知性のある地球外生命体と接触する可能性は極めて低い。なぜなら、私たちが地球で電波を使うようになったのは100年ほど前であり、その電波は既に100光年先まで届いているはずなの…

『直感を裏切る数学』は仕事や暮らしにも役立つ

先日紹介した『知のトップランナー』で、音楽家のブライアン・イーノが面白いコラムを書いていた。テーマは直感の限界。地球の円周より1メートル長いリボンを使って、地球の表面とリボンの間が等しくなるように地球を囲むと、地球の表面からリボンはどれだけ…

科学の名言集『知のトップランナー 149人の美しいセオリー』

私は仕事柄、ソフトウェアやハードウェアの仕様を短い文章でまとめる機会が多い。複雑に絡み合った条件を日本語で分かりやすく説明する。すべての条件を満たす短文が仕上がると嬉しい。試行錯誤を繰り返していると、カチッとはまる瞬間があるのだ。自然科学…

恋人を選ぶ基準『赤の女王 性とヒトの進化』

恋人や結婚相手を選ぶときの基準は、性格や容姿、収入や家柄など様々な要素があると思うが、遺伝子を意識する人はあまりいないはずだ。『赤の女王』の著者マット・リドレーは、突き詰めると遺伝子しかないと説く。人は強い生殖能力と素質のある遺伝子に惹か…

義体化の夢『サイボーグ昆虫、フェロモンを追う』

サイボーグ昆虫は昆虫の脳で動くロボット。昆虫の頭部と腹部を切り離し、触覚と眼を残した頭部にモーターを繋げる。触覚で匂いを検知すると、脳が指令信号を発してモーターを動かす。攻殻機動隊というアニメに全身を義体化したサイボーグが登場するが、イメ…

限界を科学する本『人間はどこまで耐えられるのか』

人間の身体は極限の環境でどのような反応を起こすのだろう。生と死を分ける限界値はどこにあるのだろう。そんな疑問に答えてくれるのが『人間はどこまで耐えられるのか』だ。同じテーマのサブカルチャー本ならヴィレッジヴァンガードで見かけるが、本書のよ…

意識の終点『脳のなかの倫理』

※この物語は『脳のなかの倫理』を読んで書いたフィクションである。妻がアルツハイマー病になった。最初に異変を感じたのは五年前の夏だった。私がスイカを食べたいと言ったら丸ごと買ってきてくれたのだが、まだたくさん残っていたのに次の日も買ってきた。…

『人類が知っていることすべての短い歴史』 と日常の瑣末な出来事

ジェットコースターに乗っているような一日だった。朝起きて鏡の前でコンタクトをつけようとしたら、レンズが排水溝に落ちて流れていった。家を出ると高校生が乗る自転車に足を踏まれ、仕事では嫌なことがあり、夕方彼女にふられた。世の中のすべての不幸を…

動物行動学の名著『ソロモンの指環』が電子書籍に

コンラート・ローレンツの名著『ソロモンの指環』が電子書籍で発売された。ローレンツ博士は、ヒナが産まれて初めて見る動物を親だと誤認する「刷り込み」現象を発見した。それは動物との共同生活の賜物だった。誰もが見ていながら、誰も気づかなかったこと…

鍵は細部に潜む『炭素文明論』

炭素と聞いて最初に思い浮かんだのは、鉛筆の芯でもバーベキューの木炭でもなく、炭素年代測定法だった。化石に残った炭素14を数えて、年代を特定する方法。カンブリア紀など数億年前まで遡ることができるのだから、そのスケールの大きさに圧倒される。生物…

不在を科学する本『無の科学』

人間の脳は活動していないときでも大量に酸素を消費している。休眠中はデフォルトネットワークと呼ばれる網の目が起動し、シナプスを構築しながら記憶を整理している。『無の科学』はそんな脳科学だけでなく、数学・宇宙学・物理学・生物学・医学など、様々…

科学エッセイの傑作『ご冗談でしょう、ファインマンさん』

こんなに面白い人が科学界にいたとは。リチャード・P・ファインマンは1965年にノーベル賞を受賞した理論物理学者。素粒子の反応をダイアグラムで図式化したり、素粒子の動きを経路積分で計算して、量子電磁力学の分野で大きな功績を残した。そんなファインマ…

ウイルスと遺伝子の関係を紐解く『破壊する創造者』

ウイルスと聞いて思い浮かべるのはエイズやエボラ出血熱、コレラやインフルエンザなどの恐ろしい病気だ。時には急激に、時にはゆっくりと、人間の身体に深刻なダメージを与える。だが、『破壊する創造者』の著者はウイルスが存在するからこそ生物は進化する…

時間の密度『ゾウの時間 ネズミの時間 ー サイズの生物学』

書店の新書コーナーに陳列されていた『ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 』が気になったので読んだ。本書は、人間や動物をサイズの観点で比較し、生物に隠されているパターンを解き明かそうとする。こちらは発見されたパターンの一部。 動物の時間は…

『重力とは何か』が名著である理由

世の中には名著と言われる本が沢山あるが、誰かに勧められて読んでもピンとこないことがある。小説だったらオチが面白くなかったり、ビジネス書だったら中身がスカスカだったりと理由は様々だが、学術書の場合は難解さが理由の一つだ。難解だと感じる原因は…

本はすごい『昆虫はすごい』

光分社の新刊『昆虫はすごい』を読んだ。著者は九州大学総合研究博物館の丸山博士。博士の専門は昆虫の多様性だが、本書では昆虫全般の生物学的な面白さを分かりやすく語ってくれる。例えば、毒針の麻酔で獲物を長期保存するハチ、菌の畑を作って農業するキ…

動物を飼う前に読むべき本『ソロモンの指環』

動物行動学の理論を勉強するつもりで本書を購入したが、いい意味で期待を裏切られた。書かれていたのはコンラート・ローレンツ博士の日常生活だった。ガン、カラス、オウム、イヌ、ネコ、ハムスター、魚など、様々な動物と暮らす博士の、愛に満ちた観察日誌…

ユクスキュルの環世界と客観性

前回の記事で『哲子の部屋』を紹介したが、第2回の放送に登場した環世界という概念が気になったので、ユクスキュルの『生物から見た世界』を読んだ。環世界とは、それぞれの主体にとっての環境世界を指す。たとえば人間が森の中に入ると、そこには木があり土…

宇宙船地球号

Photo Link人が宇宙を思い浮かべる時、その隅には地球の姿がある。宇宙のスケールでは、地球はとてもゆっくり動いているように感じる。ゴゴゴゴゴゴゴゴ。巨大な物体の重低音が聞こえてくるようだ。

空想と現実『ガリレオの指』

科学にスキャンダルはつきものだ。1989年、フライシュマン教授とポンズ教授は常温での核融合に成功したと発表した。安価で簡易な次世代エネルギーの誕生が期待されたが、その後の追試験で全く再現しなかったため、至るところからバッシングを受けた。最近で…

虐待する親へ『愛を科学で測った男』

私は子供に対して少し神経質なのかもしれない。食べ物で遊んだり、宿題をやらなかったり、ゲームをやめなかったり。そんな時、どうしようもなく怒りが込み上げて、反射的に手が出ることがある。そして自分を責め、ひどく憂鬱になる。なぜならその暴力は子供…

人生の扉が開く『宇宙の扉をノックする』

宇宙について考えると不思議な感覚に包まれる。地上に立つ自分、空から見た自分、日本の地形、月から見た地球、太陽系の地球、無数の銀河、そして膨張する宇宙。人間は宇宙のスケールで見ると極めて小さい存在だ。なのに恋や仕事に一喜一憂し、人生を送って…

日本の未来やいかに『100年予測』

未来予測は面白い。いくら荒唐無稽で根拠のないものでも、当たるか外れるかは誰にも分からないからだ。まだ起きてない未来は誰に対しても平等に存在している。素人でも専門家でも予測である事に変わりはない。だが、専門家は当たる確率を引き上げる。ジョー…

名著『世界を変えた17の方程式』が電子書籍で登場

以前紹介した『世界を変えた17の方程式』が電子書籍になった。本書は昨年出版された数学者イアン・スチュアートの傑作。ピタゴラスの定理やアインシュタインの相対論など、方程式が世界をどのように変えたのか教えてくれる。方程式の意味を単純に解説するだ…

子供が文系を選ぶ前に読ませたい『面白くて眠れなくなる数学』

多くの高校では2年に上がるタイミングで文系と理系に別れるが、文系を選ぶ理由は消極的なものが多い。数学が苦手だからとか、なんとなくみんな文系だからとか。まれに女子が多いからという積極的な理由もあるが、往々にして文系は流されて選んでいるように思…

セックスを科学する本『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』

ジャレド・ダイアモンドはアメリカの進化生物学者で、『銃・病原菌・鉄』でピュリッツァー賞を受賞したサイエンスライターだ。フィールドワークをベースにしているため主張に説得力があり、語りかけるような文体と絶妙な比喩が読者を惹きつける。そんなジャ…

『フェルマーの最終定理』は知的な興奮を約束する

ある三乗数を二つの三乗数の和で表すこと、あるいは、ある四乗数を二つの四乗数の和で表すこと、および一般に、二乗よりも大きいべきの数を同じべきの二つの数の和で表すことは不可能である。私はこの命題の真に驚くべき証明を持っているが、余白が狭すぎる…

花粉症や喘息など、アレルギー疾患に対する一つの解『寄生虫なき病』

幸いにも私は今まで花粉症や喘息に悩まされることはなかったが、食物に対するアレルギーはある。それは甲殻類アレルギーと呼ばれているもので、エビやカニを食べると唇や食道が赤く腫れて炎症を起こす。発症したのは大人になってからで、子供の頃はエビフラ…

薬にまつわる驚きの定説『遺伝子が明かす脳と心のからくり』

『教養のためのブックガイド』に登場する石浦章一教授の話が痛快で、試しに著書を読んでみたらやはり痛快で面白かった。『遺伝子が明かす脳と心のからくり 』は、東京大学教養学部の講義で石浦教授が語った内容をまとめた本。石浦教授の専門は分子生物学で、…