テキストと小説|村上龍 歌うクジラ
村上龍の小説を初めて読んだのは確か15才の時だ。コインロッカーベイビーズだったと思う。親に捨てられた双子の人生を、退廃的な背景描写と共に描いた、見事なエンターテイメント作品だった。それから、限りなく透明に近いブルーや愛と幻想のファシズム、69などを読み、私の中では最高傑作である五分後の世界と出会った。五分後の世界はぜひ読んで欲しい。日本が第二次世界大戦で降伏しなかった世界。そんな五分後の世界に迷い込んだ小田桐。湿林を肌で感じる事ができる緻密な描写。グレネードランチャーを濡れた生き物と錯覚する武器の形容。身体の千切れる音が耳元でするような生々しい表現。村上龍の作品は臨場感があるから物語に没入する事ができる。五分後の世界の続編であるヒュウガウイルスや、半島を出よ、希望の国エクソダスなども、機会があったら読んで欲しい。私は彼の小説をすべて読んでいるはずだ。そんな村上龍が、旧友である坂本龍一と手を組んで発表した作品が、電子書籍、歌うクジラ。当初はiPad版(AppStore)しかなかったため読むのを諦めていたが、先日iPhone版(AppStore)が発売された。いま第1章を読み終えたところだ。率直に感想を述べると、読みづらかった。物語の世界に入る事ができなかった。凛として読む事ができなかった。最近小説を読んでいなかったからかもしれない。区切りをつけたい所に句読点がなかったからかもしれない。書き下ろしではなく連載小説だったからかもしれない。色々な理由があると思うが、最も大きな要因は1画面の文字数にある。iPhoneは1ページの文字量が少ない。短い1行の中で読点が2回続くとつまづく。次ページの文頭もスムーズに読めない。iPhoneでブログを読んでいる人なら分かるはずだ。PCでサイトを直接見た後に、同じページをiPhone専用のレイアウトで見ると違和感がある。左右の文字数と、上下のスクロール幅が違うからだ。PC用のサイトが本物だとすると、iPhone用はまるで借物のようだ。紙の本の見開き。あのレイアウトは黄金比でできているのかもしれない。この記事は段落や改行がないので読みづらかったはずだ。iPhoneで読む歌うクジラはこんな感じだ。大きな画面のiPadなら読みやすいかもしれないが、願わくば紙の本で縦に読み直したい。テキストではなく小説として。