科学を媒体にした芸術家、アインシュタイン
- ヤングのような "マルチ学者" を見るにつけ痛感することだが、総じて昔の学者は一人で広範囲の仕事をしている。それに比べ、近年の「学者」の "守備範囲" は非常に狭くなっている。
Kindleストアで見つけた『アインシュタイン丸かじり』が面白かった。本書はアインシュタインの熱狂的なファンである静岡理工科大学の志村史夫教授によって書かれた本で、冒頭の数ページを読むと著者の熱い思いが伝わってくる。アインシュタインを知っていただきたい。このような言葉の直球を繰り返す著者に、私は好感を持った。
本書には物理学の方程式が幾つか出てくる。物質、空間、速度、時間、重力、光などを解き明かす方程式。だが、それらはアインシュタインの功績を解説するために登場するのであって、本書の主題はあくまでアインシュタインの人間性にある。公式を細部まで理解する必要はない、私達は刺激を受ければいいだけだ。
1905年、アインシュタインは26歳の若さでノーベル賞級の論文を5篇発表した。光の粒子説、分子の大きさの決定法、ブラウン運動、特殊相対性理論、質量とエネルギー。これらはレーザー、太陽電池、デジタルカメラ、GPS、原子力発電など、今日のエレクトロニクスに大きく貢献している。
だが、負の遺産もある。冒頭の写真は1999年にアメリカの週刊誌『タイム』が、20世紀を代表する人物としてアインシュタインを選んだ時のものだ。写真のタイトルは「懺悔するアインシュタイン」。原爆はアインシュタインの方程式「E=mc²」を理論的支柱として、アメリカが開発し製造した。親日派のアインシュタインは、日本に原爆が投下された事を知った瞬間、悲嘆の叫び声を上げたそうだ。
アインシュタインは、ニュートンの「絶対時間」と「絶対空間」を否定した際、こう語った。
- ニュートンよ許したまえ。あなたはあなたの時代において最高の思考力と創造力をもった人間に、かろうじて可能であった唯一の道を発見された。あなたの創造された概念は、現在でもなお、われわれの物理学的思考において指導的なものであります。
ニュートンもまた、アリストテレス、コペルニクス、ガリレイに向けて語る。
- もし仮に、私がほかの人よりも遠くを見渡すことができたとすれば、それは私が巨人たちの肩に乗っていたからである。
時代を超えて語り合う偉人たちは、科学者であると同時に哲学者であり、芸術家だった。
冒頭の言葉は本書で志村史夫教授が嘆いたものだ。これは学者だけに限った話ではない。例えば私が書いているブログにも当てはまる。ブログを書くためにブログ理論ばかりを読んでいても、面白い記事は書けない。手塚治虫も言うように、小説を読み、映画を観て、音楽を聴き、科学を知り、そして自分の世界を作る。
芸術家のアインシュタインは言う。
- 空想は知識より重要である。知識には限界があるが、想像力は世界を包み込む。
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