松丸本舗の跡地『松岡正剛の書棚』

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松岡正剛という無類の読書家がいる。雑誌『遊』を刊行し、編集工学という概念を打ち立て、自らも多くの本を書いている思想家。2000年に始まった千夜千冊という書評サイトは、2004年にガンで胃を摘出した後も続いており、先日の更新で1512回目の夜を数えた。

松岡正剛は、2009年に松丸本舗という書店をプロデュースした。東京丸の内にある丸善の一角に、自身でセレクトした約2万冊の書籍を独自の分類で陳列した。今回紹介する『松岡正剛の書棚―松丸本舗の挑戦』は、松丸本舗の写真と共に、松岡正剛がキーブックについて解説する本だ。


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「書棚を編集するとは、世界を編集することである。」

こんな書き出しで始まる本書には、松丸本舗と同じく、一風変わった書棚が登場する。

  • 遠くからとどく声(文芸)
  • 猫と量子が見ている(科学、数学、物理学)
  • 脳と心の編集学校(脳科学、心理学)
  • 神の戦争・仏法の鬼(思想、哲学)
  • 日本イデオロギーの森(日本の思想、歴史、宗教、政治)
  • 茶碗とピアノと山水屏風(アート)
  • 男と女の資本主義(エロス、経済史)


その中で、私が気になった本はこちら。


通常の書店は、ジャンルごとに本が整然と並んでいるだけだが、松丸本舗はジャンルの壁を越える。時には年代を縦に追いかけ、時には年代を横に切り取り思想を追う。知の巨人と言われる松岡正剛だからこそ成せる仕事だ。

こちらは情熱大陸の映像。



松岡正剛は、言葉の選び方がいい。

例えば109ページ。J・G・バラードの『時の声』を「リトマス試験紙」と表現する。SFに限らず、あらゆる文学を読むにあたって基準となった作品という意味だ。

また、98ページの対談の中で、松岡正剛東浩紀の書棚について質問する場面がある。東浩紀は、本の場所を身体感覚で覚えていると答える。松岡正剛はそこで「知のアドレス」という表現を使う。


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まさに、松丸本舗は知のアドレスが凝縮された場所。一度訪れてみたかったが、残念ながら2012年に閉店している。

今回紹介した『松岡正剛の書棚』は、松丸本舗の跡地のような存在だ。物質としての本はもう並んでいないが、思念がここに陳列されている。

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