戦争映画では語られない『補給戦』とは? ー 何が勝敗を決定するのか



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    司令官が作戦行動とか戦争発起、前進、浸透、包囲、せん滅、消耗など、要するに長々と続く全戦略の実行を頭に描き始める以前に、彼にはしなければならないし当然するべき事柄がある。それは麾下の兵卒に対して、それなくしては兵として生きられない1日当たり3000キロカロリーを補給できるかどうか、自分の才能を確かめることである。ー 補給戦 何が勝敗を決定するのか


一番好きな戦争映画は?と聞かれたら、迷わず『プライベート・ライアン』と答える。ストーリーも映像も素晴らしい完成度で、冒頭からラストまで観る者を圧倒する。

映画の舞台は1944年6月のノルマンディ上陸作戦アメリカ連合軍はドイツを打破するために、海と空から300万人の兵士をフランスに上陸させた。食糧と弾薬の補給、移動と戦闘の時期など、戦争史上、最も綿密に計画された作戦だったが、開始直後から予定は大いに崩れた。それでも連合軍が勝利を収めた理由とは。

今回紹介するマーチン・ファン・クレフェルトの名著『補給戦 何が勝敗を決定するのか』は、戦争において補給がどのような役割を担っているか検証する。


目次
序章 戦史家の怠慢
第一章 16〜17世紀の略奪戦争
第二章 軍事の天才ナポレオンと補給
第三章 鉄道全盛時代のモルトケ戦略
第四章 壮大な計画と貧弱な輸送と
第五章 自動車時代とヒットラーの失敗
第六章 ロンメルは名将だったか
第七章 主計兵による戦争
第八章 知性だけがすべてではない


16〜17世紀は河川の利用方法を知っている側が勝利した。移動を続けていれば現地で徴発できるため、食糧には困らなかった。徴発とは、民家などから食糧を取り立てる事を意味する。

搾取できる食糧には限りがあるため、特定の土地に長く留まる事はできなかった。では、ナポレオンはいかにして20万人の大部隊を1日25キロメートルの割合で前進させ、給養させたのか。

1807年、ナポレオンは当時としては革命的な一歩を踏み出した。すなわち初めて「大陸軍」は、部隊随伴の車両に加えて、正規の補給部隊が与えられたのである。この部隊は、もはや徴発されたり雇われたりした車両や御者から構成されたものではなく、完全に軍隊化された人員や装備から成り立っていた。


19世紀に入ると、補給手段は鉄道と自動車が中心になった。だが、敵国では鉄道の軌間が異なっていたり、自動車のスペアタイヤが手に入らなかったりと、様々な問題を抱えた。

混雑のために補給物資が、労働力と空間に余裕があるところでも貨車に積まれたままになったことである。食糧は貯蔵能力があるなしにかかわらず荷下ろしされないで腐るままに放置され、それを土中に埋める労働力がないために、悪臭はたちまちひどくなった。


補給する物資も時代と共に変化した。19世紀までは補給の中心は食糧だったが、20世紀の大戦では弾薬が大半を占めた。

経済的補給物資(食糧、かいばなど)の一日の消費量はなお20両分だったが、戦闘物資、特に弾薬の運搬に必要な車両は、約30両に増加していた。1914年以降人馬に必要な食糧は、野戦軍が求める全補給物資のうちの一部、それも通常はごく一部を占めるにすぎなくなった。まさにこのために、部隊の必要物資の大部分を現地で調達するのはもはや不可能となった。


そして、第二次世界大戦ノルマンディ上陸作戦では、アメリカ連合軍は兵站を徹底的に調査して望んだ。

作戦を計画した人々は連合軍によるヨーロッパ進攻が最終的に成功するかどうかは、敵を上回る速度で、兵力と資材を投入できるか否かにかかっていることよく承知していた。(中略)上陸する約18ヶ月前から開始して数千の構成要素から成る一つの巨大なモデルが徐々にでき上がっていった。

  1. 上陸開始日のDデーに使用する上陸用舟艇、沿岸用舟艇、兵員輸送船、貨物船、タンカー、はしけの数。これらは一定時間内に揚陸できる兵員・装備の最大量を決定する。さらにこれらの舟は荷物を積むために基地へ戻らなければならないから、帰りの時間を短縮するため基地はできるだけ近くにあるべきだ。
  2. ...


だが、補給体制も含めて作戦は失敗する。

比類なき大きさと徹底ぶりを示した計画を見ると、作戦の勝利は大部分計画がうまくいったためだと考えるかもしれない。だが、そうではなかったのだ。上陸後数時間も経たないで、順序よく揚陸させるための計画は、大波と、特にアメリカ軍地域では猛烈な敵の抵抗のために、ことごとく失敗に帰した。航路を誤ったことによって、上陸は間違った場所に間違った順番で行われた。その結果工兵部隊が攻撃部隊より先に海岸に着き、非常に少ない兵員と資材で、攻撃部隊の援護もなしに作業しなければならなかった。


それでも連合軍が勝利した理由とは? そして、著者が導き出した勝敗を決定する要因とは?


今まで数多くの戦争映画を観てきたが、補給をクローズアップした映画はなかった。物資を運んで積荷を下ろす姿は確かに地味だ。だが、補給なくして戦争はありえない。

既に何回も観てきた『プライベート・ライアン』だが、補給を想像しながら観直すと、また違った発見があるかもしれない。

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