米原万里の書評集に圧倒される『打ちのめされるようなすごい本』



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打ちのめされるようなすごい本』は、米原万里の書評集。米原万里は1950年生まれの通訳者、作家、書評家。ロシア語の通訳者としては、ゴルバチョフエリツィンから指名を受けるほどの第一人者だった。

ページをめくって読み進めると、未知の言葉に遭遇して興奮する。「心が千々に乱れる」「惹句」「蒙を啓く」といった鮮やかな言葉遣い。軽やかな文体と、絶妙な皮肉。豊富な読書体験から生まれる、機知に富んだ文章。


例えば、丸谷才一の『笹まくら』を紹介するくだり。

小心翼々として希望と絶望のあいだを揺れ動く浜田の意識は、ますます頻繁に過去と現在を往復する。その度に薄皮の剥けるようにして(細胞膜並みの薄さで、これに較べるとクックの薄皮は、バナナの皮の厚み)浜田の忌まわしくも輝かしい過去がより鮮明に甦り、現在の日常の閉塞感と矮小さが浮き立ってくる。

友人が絶賛したトマス・H・クックの『夜の記憶』を揶揄するために、『夜の記憶』の厚顔さをバナナの皮に、『笹まくら』の繊細さを薄皮に喩えている。


本書に登場する書籍は400冊以上。その中で気になった思った本はこちら。

これでもごく一部。


2003年の秋に米原万里は卵巣癌を告知された。書評の対象も癌に関係した本が増え、読む側の加速度も増していく。

そして2006年5月18日の週間文春に最後の書評が載り、その1週間後に亡くなった。もう彼女の新しい息遣いを聞くことはできないが、今でも存在を感じる事はできる。この圧倒的な書評集の中で。

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