『情報技術の人類史』を読まずして未来を生きるなかれ
- 紙にインクで記された八分音符や四分音符が音楽なのではない。音楽とは空気中に響く圧力波の連続でもない。レコード盤に刻まれた溝でも、CDに焼き付けられたくぼみでもない。聴き手の脳内に引き起こされるニューロンの交響でもない。音楽は、情報そのものだ。〜 ジェイムズ・グリック
1948年、AT&Tベル研究所のクロード・シャノンが、『通信の数学的な一理論』という題名の小論文を発表し、初めて情報を数学的な量として定義した。単位は0と1のbinary digit(二進数字)で、後に省略されてbit(ビット)と呼ばれるようになった。ジェイムズ・グリックによる『インフォメーション 情報技術の人類史』は、そのような情報単位の誕生、情報の起源、伝達手段の進化、最新の処理技術を、緻密にドラマチックに描く物語だ。
第1章の太鼓はトーキング・ドラムのことを指す。トーキング・ドラムはアフリカの打楽器で、音の高さと長さを変えて遠方まで情報を伝達する。つまり無線通信の起源だ。
第2章からシュメール人の楔形文字、バビロニア人の方程式、世界初の英語辞典、バベッジの階差機関へとテーマが続く。バベッジの階差機関とは、史上初めて機械に記憶力が授けられた歯車式計算機のことだ。
情報の歴史上、最も大きなターニングポイントは、第5章に登場する電信の普及にある。アメリカ大陸やドーバー海峡を電線で繋ぐことにより、モールス信号を使って瞬時に情報が伝わるようになった。地球上の時間と空間が消滅したのだ。
第6章以降、電話、Eメール、インターネット、ソーシャルネットワーキング、遺伝子、Wikipedia、Googleへとテーマが続く。
ニュートン、ファインマン、ゲーデル、ウィトゲンシュタイン、アインシュタイン、チューリング、ジミー・ウェールズ、エリック・シュミット、ドーキンスなど、名だたる人物のエピソードもはさまれ、物語は豊潤さを増していく。
- あらゆる生き物の中心部にあるのは、炎でも、温かな息でも、生命の火花でもない。情報、単語、命令だ。喩えが欲しいなら、炎や火花や息を思い浮かべてはならない。代わりにばらばらの莫大な数の、水晶の銘板に刻まれたデジタル文字を考えるといい。〜 リチャード・ドーキンス
DNAには60億ビットの情報がある。宇宙は10の19乗ビットで語ることができる。テキスト、写真、音楽、動画など、私たちはスマートフォンやインターネットを使って毎日ビットで情報をやり取りしている。だが、シャノンが定義したように、情報は本当にビットで計れるものなのだろうか。
『インフォメーション 情報技術の人類史』は情報を定義しない。
情報過多の現代、データをそのまま受け取って流されてはいけない。行と行の間、ビットとビットの間に情報を見出し、自分の頭で考えなくてはいけない。それが来るべき量子コンピュータの時代、つまりキュビットの時代を生き抜く力となる。
ハードカバーで500ページを超えるこの長編から、私はそんなメッセージを受け取った。
➤ インフォメーション 情報技術の人類史(新潮社)Amazon / 楽天ブックス
関連記事
- 人類史のロマンを語る『銃・病原菌・鉄』が電子書籍で登場 - #RyoAnnaBlog
- 世界は数学でできている『数学する本能 』 - #RyoAnnaBlog
- ワンダフル・ライフ - #RyoAnnaBlog