東大教授による『教養のためのブックガイド』50選
何のために本を読むのかと聞かれたら、書くためだと答える。何のために書くのかと聞かれたら、知るためだと答える。何のために知るのかと聞かれたら、考えるためだと答える。答えは用意してあるのだが、聞かれたことは一度もない。
東京大学教授による『教養のためのブックガイド』が面白かった。
発起人の小林康夫教授は、学生が本を読まなくなったと嘆く。教養がないと会話ができない、自分で道を切り開くことができない、本は考える力を養うためにある。そんな思いを伝えるために、このガイドブックが企画された。
本書に登場する370冊のうち、私が気になったのはこちらの50冊。
第一部 いま、教養とは?
このガイドブックで一番刺激的だったのが、長谷川寿一教授による「人間とチンパンジーのあいだで」の章だ。チンパンジーとの分岐から言語の獲得まで、人類の進化史をミステリアスに語ってくれる。
何かを知っているだけの雑学では、評価や意思決定を要しませんが、教養は物事に対してそれを記述するだけではなく、それをどう価値付け、判断するか問われます。(中略)
教養は、新たに取り込んだ個別の知識を従来の知の体系にどう組み込むか、組み込めなかったとしたら知の体系をどう再編成するかといったことに深くかかわります。たとえば、新しいテクノロジーで人工的な生命が誕生したときにそれをどのように扱うべきか、従来の法律では対応できない問題が生じたときにどう対処すべきかなど、このような問題は枚挙にいとまがありません。
第二部 座談会 "教養と本"
小林康夫教授は、本でなくてはいけない理由をこう語る。
ビジュアルな情報はあっという間に感覚に入る。脳は瞬時のうちにそれを享受することができるわけですけど、文字言語はイメージと違って、すぐには像が結ばれない。イマジネーションを働かして自分で像をつくり上げなくちゃいけないわけです。実はこれがすごく重要です。
(中略)
本はある意味では時代おくれの遅いメディアなんだけど、その遅さの中に途方もなく重要な精神の形成力がある。
第三部 さまざまな教養
石浦章一教授による「自然科学の新しい常識」の章も面白い。科学者は発見した事実を単に書くだけではだめで、豊潤な言葉で読者を魅惑する必要がある。それをエッジの効いた語り口で教えてくれる。
過去を振り返ることも重要なら、時代の先端を読むことも大切である。月刊で出版される『日経サイエンス』誌は翻訳が主であるが、各トピックの著者がその分野の第一人者であることが多く、科学の今がよくわかる。科学を志す人にとっては必読であり、そのことは私が大学生であった30年前も同じだった。シャープな感性は他分野を勉強することで磨かれるものだが、この雑誌は真にその任を果たしている。ここでもう一つ違う分野で時代の先端を読むのを挙げろと言われれば、月刊『ナショナル・ジオグラフィック』しかない。
第四部 教養の彼方
野崎歓教授は、学術書だけが教養を身に付けるツールではないと言う。
なぜ文学なのか。急いで理由を二つ付け加えておきます。一つは、文学が基本的に専門知識や準備を必要としない領域であり、読む側は本を開きさえすればいいという自由さを本質とするものだからです。理系文系の別なく、文学はだれでもすぐ入門可能なのです。もう一つは、繰り返しになりますが、それが「書き言葉」の力に触れるための最適の場だから。情報に還元されない言葉のボリュームや色気の精緻さを感得する能力を育まずしては、言葉をもつ動物として生まれてきた甲斐がないというものでしょう。
それにしてもリチャード・ドーキンスが人気だ。少し前に『利己的な遺伝子』を読んだのだが、あまりピンとこなかった。周辺の知識がなかったせいでもあるが、レトリックが多すぎて事実と予測の区別がつかなかったのだ。『盲目の時計職人 』など、別の本にも挑戦してみようと思う。なぜ懲りずに読むのかと聞かれたら…
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