同期現象の解明に挑む『SYNC ー なぜ自然はシンクロしたがるのか』
世界を記述する言語は数学である。これはガリレオの名言だが、確かに私たちの身の周りは方程式で満ちあふれている。先日も街を歩いている時、ふと、影の長さが気になった。太陽の位置が移動すると影の長さも変わるが、この長さは三角法で特定できるのだろうか。そんな事を考えながら歩いていたら、電柱に頭をぶつけた。
というのは冗談だが、世界には太陽と影のように一対一の関係だけではなく、複数が同期する関係もある。例えばホタル。最初はバラバラに光っているのに、しばらくすると数百匹のホタルが同時に明滅するようになる。卵子を目指す精子も同時に尾ひれを振るし、心臓を動かすペースメーカー細胞も同時に振動する。
同期現象研究の第一人者スティーヴン・ストロガッツは、このような自然の神秘を数学で解明しようとする。その過程を物語にしたのが『SYNC ー なぜ自然はシンクロしたがるのか』だ。
本の目次
第1部 生体における同期第1章 ホタルはなぜ、いっせいに光るのか
第2章 脳波と同期現象の条件
第3章 睡眠や日々の同期現象
第2部 同期の発見第4章 同期する宇宙
第5章 量子のコーラス
第6章 橋
第3部 同期の探求第7章 同期するカオス
第8章 三次元における同期
第9章 「小さな世界」ネットワーク
第10章 ヒトと同期
鳥肌が立ったのは第6章の橋の話。2000年6月10日、イギリスでミレニアム・ブリッジが開通したが、2000人が同時に渡ったところ激しく横に揺れたため、すぐに封鎖された。設計者は通行人の歩調のシンクロが原因だと主張したが、ある雑誌の読者が異議を唱える小論を寄稿した。その寄稿者の名前は…
脳の視床下部にあるマスター・クロックの話も面白い。人は生まれつき24時間のリズムを感じ取る能力があるが、洞窟など、外界から閉ざされた環境で生活するとどうなるのか。それを実験し、サーカディアン・ペースメーカー細胞という体内時計が、マスター・クロックと同期している事を突き止めた。
他にも、睡眠のサイクルや月の自転、コオロギの鳴き声やコンサートホールの拍手、交通渋滞や交通事故など、自然界における様々な同期現象の解明に挑む。難しい理論も登場するが、著者の巧みなレトリックがページを次へとめくらせる。最後まで読むと、お気に入りのエピソードがきっと見つかるはずだ。
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