科学と文学のはざまで『虹の解体』
リチャード・ドーキンスの言葉は刺さる。専門の進化生物学だけでなく、物理学、数学、医学、統計学、心理学、芸術など、数多の知識をまとって振り下ろす言葉は、まるで刀のように鋭い。
詩人のキーツはニュートンを批判した。ニュートンが虹を物理的に解体したせいで詩的な側面が壊されたと。だが、ドーキンスは反論する。科学こそ驚異への扉を開く鍵であり、詩人は科学をもっと学ぶべきだと。
ドーキンスは偽りの詩をまとった科学も批判する。スティーヴン・ジェイ・グールドは『ワンダフル・ライフ』でカンブリア紀の爆発をロマンチックに描いたが、生物が突然進化することはありえない、グールドの優れた文章表現力により、一般読者だけではなく科学者も惑わされていると主張する。
『虹の解体』の目次第1章 日常性に埋没した感性第2章 客間にさまよいいった場違いな人間第3章 星の世界のバーコード第4章 空気の中のバーコード第5章 法の世界のバーコード第6章 夢のような空想にひたすら心を奪われ第7章 神秘の解体第8章 ロマンに満ちた巨大な空虚第9章 利己的な協力者第10章 遺伝子版死者の書第11章 世界の再構成第12章 脳のなかの風船
だが、当のドーキンスも巧みなレトリックで読者を惹き込む。遺伝子を擬人化し、音の周波数をバーコードに喩え、頭蓋骨の内側で宇宙のモデルを組み立てる。
本来、科学に文学性は必要ない。科学は事実だけを説明すれば良いのだが、正しいことを「正しい」と言われても理解できず、良質な直喩や隠喩により理解が進むこともある。
私たちは、科学と文学の狭間で正否を見極めなくてはいけない。
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