自分に足りないものが見つかる本『デザイン思考が世界を変える』
私はマインドマップが苦手だ。吹き出しや矢印が四方八方に配置されていると、どこから見ればよいのか分からず混乱する。要素の繋がりがはっきりせず、言いたいことが頭に入ってこない。マインドマップを見るのが苦手だから作るのも苦手で、本の目次のように1から10まで順序よく並んでいるほうがすっきりする。
『デザイン思考が世界を変える』は、目次の代わりにマインドマップが最初に登場する。目次もあるが、マインドマップこそ全体を直感的に理解し、最適な表現方法を模索するのに都合がいいと著者は言う。
著者はIDEOの社長ティム・ブラウン。IDEOはアメリカに本拠地を置くデザインコンサルタント会社で、アップルのマウスなど画期的なプロダクトをデザインしてきた。マイクロソフトやペプシなどの大企業だけでなく、医療機関や銀行、政府も顧客に抱え、製品だけではなくサービスもデザインする。
デザイン思考とは体験のデザインを意味する。例えば自転車なら、外観や機能をどうするか考えるだけでなく、どうすれば楽しく自転車に乗れるのかを考える。そのためには深い洞察と観察が必要で、ユーザーに共感して行動しなければならない。
絵とプロトタイプが重要で、スケッチブックやポストイットにアイデアを描いてグループで共有する。例えば、ポストイットを店舗のカウンターに見立てて銀行の新サービスを開発し、バター缶のフタとボールを使ってアップルのマウスをイメージする。
本の目次
- デザイン思考を知る ー デザイン思考はスタイルの問題ではない
- ニーズを需要に変える ー 人間を最優先にメンタル・マトリクス ー この人たちにはプロセスというものがまるでない!
- 作って考える ー プロトタイプ製作のパワー
- 初心にかえる ー 経験のデザイン
- メッセージを広げる ー 物語の重要性
- デザイン思考が企業に出会うとき ー 釣りを教える
- 新しい社会契約 ー ひとつの世界に生きる
- デザイン・アクティヴィズム ー グローバルな可能性を秘めたソリューションを導き出す
- いま未来をデザインする
本書はどの章から読んでも新しい発見がある。テーマは多様だが、全体として見ると芯が通っている。そう、この本は私が拒否反応を起こしたマインドマップそのものだ。本という時系列の体裁をとりながら、同時に空間としてもデザインされている。私に足りなかったのは、テーマを視覚的に捉える感覚だったようだ。
ティム・ブラウンは言う。
優秀なデザイン思考家は観察するが、偉大なデザイン思考家は「普通」を観察する。一日に一回、立ち止まって、普通の状況について考えるようにしてみよう。事件現場の刑事になったつもりで、普段は一度しか見ない(あるいは、まったく見ない)行動やモノをもう一度観察しよう。マンホールの蓋はなぜ丸いのか? あなたの10代の子どもは、なぜそんな服装で学校に向かっているのか? 行列に並ぶとき、前の人とどのくらい間隔を開けて立つか、どうやって判断しているか? 色盲になったら、どのような間隔なのか?
ティム・ブラウンはデザインだけではなく人類学や経営学にも長けている。シャープな感性は他の分野を学ぶことで磨かれる。そして、常に自分の頭で考えなければならない。なぜなら本書でも引用されているように「偶然は心構えのある者にしか微笑まない」からだ。
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