虐待する親へ『愛を科学で測った男』

20140717221933私は子供に対して少し神経質なのかもしれない。食べ物で遊んだり、宿題をやらなかったり、ゲームをやめなかったり。そんな時、どうしようもなく怒りが込み上げて、反射的に手が出ることがある。そして自分を責め、ひどく憂鬱になる。なぜならその暴力は子供自身の問題ではなく、自分の都合から生まれたものだからだ。

ハリー・ハーロウは、世界で初めて愛を科学で測った心理学者。アメリカでは1900年代半ばまで、感染症を防ぐために母親と赤ちゃんは接触するべきではないという定説があった。赤ちゃんは母親を愛したり必要とするわけではなく、授乳に基づいた関係でしかないと思われていた。

ハリーはアカゲザルの実験で愛の本質を発見した。サルの赤ちゃんがいるゲージに顔をつけた布を入れたところ、布を母親と勘違いしてべったりくっつくようになった。針金で作った母親ではだめで、赤ちゃんには柔らかく温かい感触が必要だった。

だが、布の代理母で育ったサルは、ほとんどが精神疾患になった。赤ちゃんには、抱きしめ返したり微笑み返すといったリアクションが必要だったのだ。布に細工をして、しがみ付く赤ちゃんを突き飛ばすようにする。それでも精神疾患は大きく緩和した。

親は子どもを抱きしめるべきである。今ではあたり前の考えだが、そのような基盤を築いたのがハリーだった。強制妊娠装置や抑鬱発生装置などの使用で、倫理的な批判も受けたが、ハリーは愛情の心理学を確立しようとする信念を持っていた。

サルにも虐待する親がいる。虐待されるサルの子供は、親が寝てから自分の家に戻り、寄り添って寝るそうだ。人間も虐待が後を絶たない。親に線香の火を押しつけられ、殴られて歯が折れた5歳の子供は、お母さんと一緒に寝たいと言い残して亡くなったそうだ。

愛を科学で測った男』で著者は言う。

天使のような完璧さは育児に要求されていない。必要なのは、ただそこに居つづけるだけだ。

たしかに親の愛情にはリアクションが必要だが、居るだけでも価値はある。そう思うと親も少し楽になるのではないだろうか。虐待も少しは減るかもしれない。上げようとした手も、降ろすことができるかもしれない。

本書は子供の愛し方について考える機会を与えてくれる。考える事によって暴力が一回でも減れば、それは素晴らしいことだと思う。

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