女性器の3Dデータが象徴するもの『マテリアライジング・デコーディング』
自身の女性器を3Dデータで配布し、わいせつ物頒布の容疑で作者が逮捕される事件があった。本人はあくまでアートだと主張しており、メディアは「わいせつ」と「芸術」の対比を軸に報じていたが、あれは単なる三面記事的なネタではなく、何かを象徴する事件だったのかもしれない。
先日、『マテリアライジング・デコーディング』という本が刊行された。
マテリアライジング(materializing)とは「実現する・具現化する」という意味で、ここでは形を持っていなかった情報を物理世界の中で具現化するプロセスの事を指す。同じタイトルの展覧会が開かれており、第1回は昨年6月、第2回は今年7月に東京藝術大学大学美術館で開催された。
本書は、参加した作者の意図をデコード(読み解く)する。
例えばorigamizer。オリガマイザーは紙を様々な形の折り紙にするソフトウェア。三次元の形状を三角メッシュの多面体に変換して、その展開図と折り紙を自動計算で描く事ができる。図形を印刷するだけではなく、カッティングマシンで紙の厚みの半分にカットを入れる事も可能だ。
また、人間の臓器も3Dでモデリングされている。心臓内部の形状を3Dモデリングで構築し、3Dデータから3Dプリントのマスターモデルを造形して、シリコンモデルを作成する。シリコンは臓器の筋肉強度に合わせて硬さが調整され、医師は3Dモデルを使ってカテーテル手術のシミュレーションをする。
本書にはこのような実例と解説が、写真と共に幾つも登場する。欄外の注釈も豊富で、コンピュータ造形の最前線を知るには最適な一冊だ。
3Dスキャナや3Dプリンタが安価になり、RhinocerosやGrasshopperなどのソフトウェアが普及する。情報を物質化する作業が、専門家から一般人にシフトする。その結果、女性器のデータが売り買いされる。
渋谷のオープンカフェFabCafeでは3Dスキャナや3Dペンが開放されている。柏のコワーキングスペースKOILではレーザーカッターや3Dプリンタが利用できる。情報を手軽に物質化する時代はそこまで来ている。
いつかターニングポイントを探った時、女性器事件が再浮上するかもしれない。
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