『人類が知っていることすべての短い歴史』 と日常の瑣末な出来事

20141111212237ジェットコースターに乗っているような一日だった。

朝起きて鏡の前でコンタクトをつけようとしたら、レンズが排水溝に落ちて流れていった。家を出ると高校生が乗る自転車に足を踏まれ、仕事では嫌なことがあり、夕方彼女にふられた。世の中のすべての不幸を背負った気分で家に帰る途中、ふと夜空を見上げると月がこちらを見ていた。

いま僕が立っている地球は時速1,600kmで自転していて、その周りを月が公転している。月は地球を一周する間にちょうど一回自転するため、僕たちにはウサギの餅つきしか見せない。地球の潮の満ち引きは月の引力のせいだが、原始の時代に惑星が衝突せず、月が生まれていなかったらどうなっていたのだろう。

宇宙には太陽系以外にも1400億を超える銀河が存在する。銀河同士は200光年ほど離れていて、宇宙の最果ては137億光年先にある。想像するのが難しいが、地球は何百万もある高度文明の一つにすぎないそうだ。だが、その高度文明も200光年を移動して地球に来るほど発達はしていない。

宇宙から生命へ。

人間の身体には約60兆個の細胞がある。細胞を分解すると分子に、分子を分解すると原子になり、原子の中心には原子核がある。原子核は陽子と中性子と電子で構成され、陽子や中性子を分解すると素粒子になる。全周27kmもある加速器で陽子を衝突させる理由は、素粒子を見つけて宇宙の起源を探ろうとしているからだ。

原子爆弾原子力発電は、この原子核から中性子を分離して開発された。中性子電荷を帯びていないので、原子の中心にある電解の抵抗を受けない。抵抗のない中性子を小さな魚雷のように原子核に向けて打ち込むと、核分裂とよばれる破壊的な過程が誘発される。

こんなことを考えたのは『人類が知っていることすべての短い歴史』を読んだせいだ。旅行記作家が数多くの文献を調べ、専門家へのインタビューを繰り返して書いた壮大な科学物語。著者は天文学、物理学、化学、生物学、力学、地理学、博物学、分子遺伝学など、様々な分野をダイナミックに編集して読者を誘う。

冬の夜空、月を見ていたらコンタクトをなくして彼女にふられたことなんかどうでもよくなってきた。宇宙と生命の奇跡に比べたら、日常の瑣末な出来事なんて大した話ではない。家に帰ってシャワーを浴びた。熱いお湯が気持ちよかったが、給湯器が壊れて途中から水になった。大した話ではないが、死ぬほど冷たい。

人類が知っていることすべての短い歴史 上巻 / 下巻(Amazon)


関連記事