限界を科学する本『人間はどこまで耐えられるのか』
人間の身体は極限の環境でどのような反応を起こすのだろう。生と死を分ける限界値はどこにあるのだろう。そんな疑問に答えてくれるのが『人間はどこまで耐えられるのか』だ。同じテーマのサブカルチャー本ならヴィレッジヴァンガードで見かけるが、本書のように科学として解説した本はあまりない。
扱うテーマは高さ、深さ、暑さ、寒さ、速さ。
水深によって圧力を受ける血液、身体の中枢温度に応じて変化する心臓、温度を検知する肌のセンサー、凍った細胞が崩壊する過程など。極限状態における身体の変化を、様々なエピソードと共にリアルに描いている。
とりわけ、高さにまつわる話は神秘的だ。
空気は上に登るほど量が減って軽くなる。高地では気圧が低くなり、酸素の分圧が下がる。人間の肺は生理学的に36トルが限界だが、エベレストの山頂に立った登山家も同じ数値を示した。地球上で最も高い場所が、人間が自力で生命を維持できる地点と一致するのは偶然なのだろうか。
著者はオックスフォード大学の生理学部教授、フランセス・アッシュクロフト。キリマンジャロで高山病にかかったり、スキューバダイビングで溺れたりと、自らもサバイバル経験が豊富な教授は語る。「生理学者の特権は、知的な冒険と肉体的な冒険を結びつけられるところにある。」
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