『100の思考実験』で想像力を鍛える
理性を伴わない想像力はただの空想だが、想像力を伴わない理性は無味乾燥である。
こんな書き出して始まる『100の思考実験』は、私たちの想像力を試す。
著者はイギリスの哲学者ジュリアン・バジーニ。ウィトゲンシュタインの言語論から映画マトリックスのワンシーンまで、身近なテーマを中心に100の思考実験を繰り広げる。
例えばこのようなもの。
- 誰もいない森の中で樹が倒れたら音はするのか。
- 砂山から一粒ずつ砂を取っていったら、いつ砂山でなくなるのか。
- 私たちが見ている世界は現実か虚構か。
- 人間の細胞は毎日生まれ変わるが、身体の細胞がすべて入れ替わっても脳が同じなら同一人物といえるのか。
- 飛行機の排気ガス量は莫大だが、環境破壊のシンポジウムに飛行機で行く人は環境保護者といえるのか。
- ある期間に抜き打ちテストが行われたが、最終日のテストは抜き打ちといえるのか。
樹が倒れると空気は振動するが、耳のない生物には音は聞こえない。人間を中心にすると音は存在するが、生物固有の環境世界では絶対的なものではない。結局のところ、人間が頭で考えている限り主観は外せないのだ。
人は答えのない問題を避けようとする。時間がないと言い訳をしたり、面倒だと言って遠ざける。解決する能力がないと悩み、苦しくなって逃げ出す。だが、怖がらず前に進んだ者だけに見える世界があるはずだ。
複数の可能性を考慮しながら最適な条件を見つけ、矛盾が生まれないよう結論に導く。論理的な思考は想像力を必要とする。冒頭で引用した一文は、このようなことを言いたかったのだろう。
本書を読むと想像力が鍛えられる。脳が高速で回転する。あなたはどこまでこの思考実験に耐えられるだろうか。