一家に一冊『元素生活』

20150324225920日常生活の中で元素を意識することはあまりない。元素を知らなくても呼吸はできるし、食べることもできるし恋もできる。だが、生きていく上で知っておいたほうがいいこともある。ベリリウムを加工するには防護服が必要だとか、テルルは名前が可愛いいわりに臭いとか、そういった他愛もないことだ。

元素生活』は私たちの暮らしと元素がどのように関わっているか教えてくれる。作者は「大人たばこ要請講座」の寄藤文平さん。アフロ、ロボット、メガネなど、ポップなイラストで元素を擬人化し、様々な情報を伝えてくれる。

例えばあなたがこの記事を読んでいる端末。海水に含まれるリチウムはモバイル端末のバッテリーに利用され、電磁波に強いマグネシウムはノートパソコンのボディに使われている。砂漠の砂に含まれるケイ素は半導体光ファイバーになり、電気を通す透明なインジウムは液晶やプラズマディスプレイになる。

本書を読み終えて周りを見渡すと、映画マトリックスでネオが覚醒した時のように、世界が元素記号の配列に見えるはずだ。というのは半分冗談だが、半分は本当だ。

元素には裏の顔もある。

どこかのアイドルが意識不明になったようにヘリウムは吸い過ぎると窒息するし、殺菌剤や漂白剤として使う塩素は毒ガス兵器にもなるし、健康診断で飲むバリウムはイオン化すると猛毒になる。

『元素生活』が書かれたのは2009年。作者は文庫版のあとがきで語る。

セシウムヨウ素ストロンチウムプルトニウム東日本大震災原子力発電所の事故の後、それらの元素の名前が日常生活にあふれるようになりました。(中略)本の中で「みんなが少しずつ科学者になって」と締めくくったのですが、僕が考えていたのとはまったく違った形で、それが実現してしまったようです。セシウムは指揮者のようなキャラクターにしたのですが、そのノホホンとしたキャラクターに、我ながら腹を立てていいのやら、癒されていいのやら。

元素がニュースになったらページをめくる。食品や洗剤の説明文が気になったらページをめくる。このイラストが恋しくなったらページをめくる。

家の本棚に置いておきたい一冊だ。

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