戦争の犠牲者は戦死者か生還者か、映画『アメリカン・スナイパー』

世の中には数多くの戦争映画があるが、何度も観たいと思える作品は極めて少ない。戦争というシリアスなテーマを作品として観る以上、映像や物語にリアリティが欠けていると白けてしまうからだろう。

今まで最も観た回数が多いのは『プライベート・ライアン』で、次点で『プラトーン』『フルメタル・ジャケット』『ハート・ロッカー』が上げられるが、そんなラインナップに『アメリカン・スナイパー』が加えられた。

アメリカン・スナイパー』は2014年に米国で公開された映画で、イラク戦争で伝説になった実在の狙撃手、クリス・カイルを描いた作品だ。

クリスは1974年に米国の南部で生まれ、2001年に世界貿易センタービルのテロを見て入隊を志願した。そこで狙撃の腕を買われ、イラク戦争に派遣された。

本作は狙撃の場面が何度も登場する。スコープから覗く映像、標的の母と子供、クリスの眼と息遣い、銃弾の音、そして砂埃。以前、攻殻機動隊のスナイピングシーンを記事にしたことがあったが、アニメと実写で手法は違うものの、同じリアリティを感じた。

監督のクリント・イーストウッドが狙撃にリアリティを追求した理由は、クリスの苦悩を観る者に伝えるためだろう。クリスは伝説のスナイパーになったが、度重なる狙撃や仲間の死で心は引き裂かれていた。自国に戻っても妻や子供と心が通わず、なんとか平穏を取り戻すものの最後は皮肉な結末を迎える。

脚本のジェイソン・ホールはクリスに直接会ってインタビューを重ねたそうだ。監督のクリント・イーストウッドはクリスの家族に会って当時の状況を聞いた。主演のブラッドリー・クーパーは役作りのため体重を20キロ近く増やした。そんな努力が『アメリカン・スナイパー』を傑作にしたのだろう。

以前も書いたが、戦争は多角的に捉える必要がある。犠牲者は自国だけではなく敵国にもいる。そして犠牲者は戦死者だけではない。最後に残る犠牲者は、遺族と生還者なのだ。

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