未完成な言葉のジグソーパズル


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完壁な文章などといったものは存在しない。完壁な絶望が存在しないようにね。
僕が大学生のころ偶然に知り合ったある作家は僕に向ってそう言った。僕がその本当の意味を理解できたのはずっと後のことだったが、少くともそれをある種の慰めとしてとることも可能であった。完壁な文章なんて存在しない、と。


これは『風の歌を聴け』の冒頭だ。

村上春樹はこれを書くのに、どれだけの時間をかけたのだろう。一気に書いたのかもしれないし、推敲を重ねたのかもしれない。ただ、結果として、最も適した言葉が選ばれているように思う。どの単語も置き換えられないし、別の場所に移す事もできない。まるで完成したジグソーパズルのようだ。


私はよく類語辞典を使う。

文章の流れに合った言葉を探すとき、iPhoneでは物書堂の『角川類語辞典』、Macでは「ことえり」と連携する小学館の『類語例解辞典』が便利だ。


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ことえり」の辞書連携は本当に素晴らしい。変換時に少し待つと、言葉の意味と類義語が自動で表示される。文章を書いている時、他の操作を挟む事なく、別の言葉を探す事ができる。


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類語辞典を使ったからといって、必ずしも最適な言葉が見つかるわけではない。言葉は自分で消化したものでないと違和感があるし、借り物の言葉はスムーズに読めない。

これは、以前書いた記事の冒頭だ。言葉の順序と単語を変えてある。

流れるように読める文章が一番いい。難しい単語は不要だし、気の利いたセリフは要らない。最も綺麗な文章は、最初から最後までつまずく事なく読める文章である。


オリジナルはこうだ。

読みやすい文章とは、流れるように読める文章だ。難しい言葉はいらない。気のきいた言葉もいらない。文頭から文末まで振り返ることなく読める文章が、最も美しい。


言葉はまるで未完成なジグソーパズルのようだ。主語と述語、目的語と修飾語。そこにはまるべきピースは決まっている。最も適した言葉を探すのが楽しい。


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