2014-01-01から1年間の記事一覧

恋人を選ぶ基準『赤の女王 性とヒトの進化』

恋人や結婚相手を選ぶときの基準は、性格や容姿、収入や家柄など様々な要素があると思うが、遺伝子を意識する人はあまりいないはずだ。『赤の女王』の著者マット・リドレーは、突き詰めると遺伝子しかないと説く。人は強い生殖能力と素質のある遺伝子に惹か…

書評集の傑作『打ちのめされるようなすごい本』が電子書籍で登場

書評集の傑作『打ちのめされるようなすごい本』が電子書籍で登場した。著者の米原万里はゴルバチョフやエリツィンが指名したほどのロシア語通訳者。通訳者と同時に作家でもあり書評家でもあった。軽やかな文体と絶妙な皮肉。機知に富む表現と圧倒的な知性。…

義体化の夢『サイボーグ昆虫、フェロモンを追う』

サイボーグ昆虫は昆虫の脳で動くロボット。昆虫の頭部と腹部を切り離し、触覚と眼を残した頭部にモーターを繋げる。触覚で匂いを検知すると、脳が指令信号を発してモーターを動かす。攻殻機動隊というアニメに全身を義体化したサイボーグが登場するが、イメ…

限界を科学する本『人間はどこまで耐えられるのか』

人間の身体は極限の環境でどのような反応を起こすのだろう。生と死を分ける限界値はどこにあるのだろう。そんな疑問に答えてくれるのが『人間はどこまで耐えられるのか』だ。同じテーマのサブカルチャー本ならヴィレッジヴァンガードで見かけるが、本書のよ…

意識の終点『脳のなかの倫理』

※この物語は『脳のなかの倫理』を読んで書いたフィクションである。妻がアルツハイマー病になった。最初に異変を感じたのは五年前の夏だった。私がスイカを食べたいと言ったら丸ごと買ってきてくれたのだが、まだたくさん残っていたのに次の日も買ってきた。…

長谷部のリーダーシップ

一昨日、豊田スタジアムにサッカーの日本代表戦を観に行った。日本代表を生で観るのは初めてだ。チケットをとった時は相手がホンジュラスということもあり国内組中心のメンバーを予想していたが、ニュースで海外組が招集されることを知り数日前から興奮して…

『人類が知っていることすべての短い歴史』 と日常の瑣末な出来事

ジェットコースターに乗っているような一日だった。朝起きて鏡の前でコンタクトをつけようとしたら、レンズが排水溝に落ちて流れていった。家を出ると高校生が乗る自転車に足を踏まれ、仕事では嫌なことがあり、夕方彼女にふられた。世の中のすべての不幸を…

動物行動学の名著『ソロモンの指環』が電子書籍に

コンラート・ローレンツの名著『ソロモンの指環』が電子書籍で発売された。ローレンツ博士は、ヒナが産まれて初めて見る動物を親だと誤認する「刷り込み」現象を発見した。それは動物との共同生活の賜物だった。誰もが見ていながら、誰も気づかなかったこと…

打ち砕かれる夢『リニア新幹線 巨大プロジェクトの真実』

先日、国土交通相はリニア中央新幹線の工事計画を認可した。JR東海は来年から着工し、2027年の開通を目指す。完成すれば東京-名古屋間を40分で結ぶ夢の超特急となるが、『リニア新幹線 巨大プロジェクトの真実』はその夢を完全に打ち砕く。環境面では、電磁…

鍵は細部に潜む『炭素文明論』

炭素と聞いて最初に思い浮かんだのは、鉛筆の芯でもバーベキューの木炭でもなく、炭素年代測定法だった。化石に残った炭素14を数えて、年代を特定する方法。カンブリア紀など数億年前まで遡ることができるのだから、そのスケールの大きさに圧倒される。生物…

不在を科学する本『無の科学』

人間の脳は活動していないときでも大量に酸素を消費している。休眠中はデフォルトネットワークと呼ばれる網の目が起動し、シナプスを構築しながら記憶を整理している。『無の科学』はそんな脳科学だけでなく、数学・宇宙学・物理学・生物学・医学など、様々…

科学エッセイの傑作『ご冗談でしょう、ファインマンさん』

こんなに面白い人が科学界にいたとは。リチャード・P・ファインマンは1965年にノーベル賞を受賞した理論物理学者。素粒子の反応をダイアグラムで図式化したり、素粒子の動きを経路積分で計算して、量子電磁力学の分野で大きな功績を残した。そんなファインマ…

ウイルスと遺伝子の関係を紐解く『破壊する創造者』

ウイルスと聞いて思い浮かべるのはエイズやエボラ出血熱、コレラやインフルエンザなどの恐ろしい病気だ。時には急激に、時にはゆっくりと、人間の身体に深刻なダメージを与える。だが、『破壊する創造者』の著者はウイルスが存在するからこそ生物は進化する…

時間の密度『ゾウの時間 ネズミの時間 ー サイズの生物学』

書店の新書コーナーに陳列されていた『ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 』が気になったので読んだ。本書は、人間や動物をサイズの観点で比較し、生物に隠されているパターンを解き明かそうとする。こちらは発見されたパターンの一部。 動物の時間は…

製品の先にあるもの『abicase for iPhone 6』

2年ほど前から、@abiphoneabさんの革ケースを愛用している。iPhoneは裸で持つと滑るが、革のケースをつけると安心だ。使っているうちに手にフィットするし、落としても衝撃から守ってくれる。

世界との関わり方が変わる10冊 #2014

優れた本には、世界との関わり方を変える力がある。流行を追うのではなく、物事の本質をつかむことができる本。読み終えると世界の見方が変わり、目の前に道が開ける本。そんな本に出会うと、自分の可能性が広がることを感じる。今回は、数学・科学・デザイ…

『重力とは何か』が名著である理由

世の中には名著と言われる本が沢山あるが、誰かに勧められて読んでもピンとこないことがある。小説だったらオチが面白くなかったり、ビジネス書だったら中身がスカスカだったりと理由は様々だが、学術書の場合は難解さが理由の一つだ。難解だと感じる原因は…

本はすごい『昆虫はすごい』

光分社の新刊『昆虫はすごい』を読んだ。著者は九州大学総合研究博物館の丸山博士。博士の専門は昆虫の多様性だが、本書では昆虫全般の生物学的な面白さを分かりやすく語ってくれる。例えば、毒針の麻酔で獲物を長期保存するハチ、菌の畑を作って農業するキ…

明快な文章を書く技法『理科系の作文技術』

明快な文章とは切れ味のよい文章だ。要点が簡潔にまとめられ、研ぎ澄まされた文章。読み進めるだけでスッと頭に入ってくる文章。そんな文章を書くヒントが、理科系の論文にあった。『理科系の作文技術』は、木下是雄教授が若い研究者向けに書いた本。事実と…

動物を飼う前に読むべき本『ソロモンの指環』

動物行動学の理論を勉強するつもりで本書を購入したが、いい意味で期待を裏切られた。書かれていたのはコンラート・ローレンツ博士の日常生活だった。ガン、カラス、オウム、イヌ、ネコ、ハムスター、魚など、様々な動物と暮らす博士の、愛に満ちた観察日誌…

ユクスキュルの環世界と客観性

前回の記事で『哲子の部屋』を紹介したが、第2回の放送に登場した環世界という概念が気になったので、ユクスキュルの『生物から見た世界』を読んだ。環世界とは、それぞれの主体にとっての環境世界を指す。たとえば人間が森の中に入ると、そこには木があり土…

哲学は日常に潜む、テレビ番組『哲子の部屋』が面白い

ブログを始めてからほとんどテレビを観なくなったが、『情熱大陸』と『プロフェッショナル 仕事の流儀』だけは今でも観ている。普段は知ることができない、プロの素顔が垣間見えるから面白い。そんなドキュメンタリーとはジャンルが異なるが、最近観る番組が…

戦後100年を迎えた時『「大日本帝国」崩壊』

私は1970年代生まれなので、昭和天皇の記憶はおぼろげながら残っている。といっても若々しく活動する姿ではなく、年号が変わる直前のご老体の印象だ。そんな天皇が44歳の時、つまり1945年8月15日、日本はポツダム宣言を受諾し、第二次世界大戦に終止符を打っ…

宇宙船地球号

Photo Link人が宇宙を思い浮かべる時、その隅には地球の姿がある。宇宙のスケールでは、地球はとてもゆっくり動いているように感じる。ゴゴゴゴゴゴゴゴ。巨大な物体の重低音が聞こえてくるようだ。

女性器の3Dデータが象徴するもの『マテリアライジング・デコーディング』

Official Site自身の女性器を3Dデータで配布し、わいせつ物頒布の容疑で作者が逮捕される事件があった。本人はあくまでアートだと主張しており、メディアは「わいせつ」と「芸術」の対比を軸に報じていたが、あれは単なる三面記事的なネタではなく、何かを象…

空想と現実『ガリレオの指』

科学にスキャンダルはつきものだ。1989年、フライシュマン教授とポンズ教授は常温での核融合に成功したと発表した。安価で簡易な次世代エネルギーの誕生が期待されたが、その後の追試験で全く再現しなかったため、至るところからバッシングを受けた。最近で…

何を信じるべきか『日本の植民地の真実』

台湾・朝鮮・満州は憎むべき日本の三大植民地と言われているが、植民地は本当に悪だったのだろうか。日本の軍隊は本当に婦女暴行や虐殺を行ったのだろうか。そんな疑問を元に大日本帝国を再評価したのが、黄文雄による『日本の植民地の真実』だ。台湾・朝鮮…

辞書を読みたいと思っていた方へ、文庫『違いをあらわす基礎日本語辞典』

「ついに冬になった」という文は違和感がある。なぜなら「ついに」という副詞は、時間が経過した後に必ず成立する事に対してはあまり使わないからだ。この場合は「やっと」のほうが正しい。言葉は直感で選ぶ事が多いが、違いを理解し意識的に選べるようにな…

虐待する親へ『愛を科学で測った男』

私は子供に対して少し神経質なのかもしれない。食べ物で遊んだり、宿題をやらなかったり、ゲームをやめなかったり。そんな時、どうしようもなく怒りが込み上げて、反射的に手が出ることがある。そして自分を責め、ひどく憂鬱になる。なぜならその暴力は子供…

おもてなしの前に日本の勉強を『和食とはなにか』

2013年12月に日本の和食が世界無形文化遺産に登録された。料理そのものに必要以上に手を加えず、素材を大切にする和食。東京オリンピックの招致と同様に、もてなす心をアピールしての登録だった。和食といえば鮨、味噌汁、天ぷら、蕎麦などが思い浮かぶが、…