表紙は詐欺、言葉の散弾、西尾維新『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』
西尾維新を知ったのはアニメ『化物語』で。同作品は高校生の主人公が怪異に関わった少女達と出会い、その怪異にまつわる事件を解決していく物語。全編に散りばめられた弾丸のような言葉の数々と、戦場ヶ原ひたぎの入浴後シーンにまんまとやられて、最後まで観てしまった。
当時、戦場ヶ原ひたぎが歌う主題歌『staple stable』とテーマソングの『君の知らない物語』は、私の中で大ブームとなった。声優の歌に警戒心はあっても免疫力がなかったのだろう。街ですれ違う人たちは、アフロで濃い顔の私が、そのヘッドフォンでアニメ主題歌を聴いているとは思いもよらなかったはずだ。
「誤解を解く努力をしないと言うのは、嘘をついているのと同じなんだよ。」
「やればできるなんて、聞こえのいい言葉に酔っていてはいけませんよ。その言葉を言うのはやらない人だけです。」
「忙しいなんて言葉は時間の配分ができない人間の言い訳ですよ。」
「無知は罪だけれど、馬鹿は罪じゃないものね。馬鹿は罪じゃなくて、罰だもの。」
そんな『化物語』の原作者である西尾維新が気になり、メフィスト賞を受賞したデビュー作『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』を読んだ。同作品はライトノベル、いわゆるラノベに分類されている。ラノベの定義は難しいが、本の表紙がアニメ調で、主人公が比較的若く、ファンタジーの要素が少しでも含まれていれば良いのだろうか。確かに同作品には髪の青い女の子が登場する。
少々現実離れした登場人物に最初は戸惑ったが、途中からぐいぐい引き込まれた。天才ハッカーの玖渚友や、天才学者の園山赤音が登場するあたりから会話のテンポがよくなる。カメラ・オブスクラ、コールドリーディング、ジャメヴ、オッカムの剃刀など、知的好奇心をくすぐる言葉が数多く登場する。
「君の意見は完全に間違っているという点に目を瞑れば概ね正解だ。」
「人間は二種類に分類される。それは追及するものと、創造するもの。」
「愛情の反対は憎悪ではなく無関心。」
「人の生き方ってのは、要するに二種類しかない。自分の価値の低きを認識しながら生きていくか、世界の価値の低さを認識しながら生きていくのか。」
天才が集まる孤島で起きた殺人事件。言葉との戯れだけではなく、ユーモアと知性もあるミステリー。ライトノベルが未体験な人は、アニメ調の表紙に引かず、思い切って読んでみて欲しい。ジャンルの境界線なんてあってないようなもの。表紙は詐欺、言葉の散弾、西尾維新。
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