時計への情熱を描いた『経度への挑戦』

20140327202416スマートフォンなどのGPSは、時計を利用して位置を特定する。地球の上空には原子時計を載せたGPS衛星が24基あり、GPS受信機はそのうち4基と通信する。その際の送信時間と受信時間の差をナノ単位で計測して、現在位置を割り出す。3000年に1秒しかずれない原子時計があるからこそ、正確な場所が特定できる。

では、原子時計が生まれる前の時代、たとえば17世紀の大航海時代は、どのようにして船の位置を割り出していたのだろう。

南北の緯度は太陽や極星との角度で特定できた。太陽は赤道の真上を通るが、その赤道が緯度0度である事を考えると、計測方法がイメージできるはずだ。

東西の経度は月との距離を計測したり、母港との時間差を正確に計る必要があった。たとえば、太陽が真上にくる12時に母港を出発して、赤道上を西に進むとする。到着ポイントで空を見上げ、太陽が真上にくるまでの時間を計測する。それが1時間だったら、地球は24時間で360度自転するので、経度15度、距離に換算して約1600キロメートル移動したことになる。

だが、17世紀は振り子時計の時代で、揺れる海の上ではまともに時間が計れなかった。航海での遭難は死を意味する。そこでイギリスは1714年に経度法を制定し、正確に経度を測定した者に、現在の価値で数百万ドルの賞金を与えることにした。『経度への挑戦』は、その時代の時計にかける情熱を描いた物語だ。


本の目次
第1章 仮想の線
第2章 時のない海
第3章 時計仕掛けの宇宙
第4章 びんのなかの時間
第5章 共感の粉
第6章 賞金
第7章 歯車作りの日記
第8章 バッタ、海に飛びだす
第9章 天の時計
第10章 ダイヤモンドの時計
第11章 火と水の試練
第12章 二枚の肖像画
第13章 ジェームズ・クック二度目の航海
第14章 大量生産へ
第15章 子午線の中庭で


物語の主人公はジョン・ハリソン。1735年、ハリソンは振り子の代わりにバネを使った時計「H-1」を完成させた。4枚の文字盤と2本のマストが印象的なH-1は、今でもグリニッジの国立海事博物館に展示されている。本書には写真が載っているが、唸るような存在感がある。

実際の航海でH-1をテストし経度をピタリと当てたため、議会はハリソンに賞金を渡そうとした。だが、ハリソンは自ら辞退する。もっと正確に、もっと小さくできる。時計職人としてのプライドが許さなかったのだ。

それから24年間、ハリソンは改良に改良を重ね、ついに懐中時計のような「H-4」を完成させ賞金を手にした。直径は13センチ、重さは1.4キログラム。文字盤に刻まれた精巧な模様が、機能美へのプライドを感じさせる。

H-4は81日間の航海テストで5秒しかずれなかった。当時としては抜群に正確な時計だったが、30時間に一度ネジを巻く必要があり、潤滑油を使っているため3年に一度分解して清掃する必要があった。

いま私の左腕で、オメガのシーマスターが時を刻んでいる。10年程前に購入した自動巻き時計だが、基本的な原理はハリソンの時代と変わっていない。最近、時間のずれが気になっていた。そろそろオーバーホールの時期だ。

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