命をかけるとき - 映画『太陽の蓋』を観て
私は名古屋に住んでいるが、東日本大震災の影響は大きかった。地震が発生して3日後に関東で輪番停電が始まったが、それが仕事に影響して、毎日が多忙になったのだ。だから津波や原子力発電所の事故は直接影響はなかったものの、震災の衝撃は今でも色濃く記憶に残っている。
『太陽の蓋』は、福島第一原子力発電所の事故に焦点を当てた映画。地震後の電源消失から、4日後の4号機火災まで、当時の政府と東京電力の動きが如実に描かれている。演じているのは俳優だが、その実はドキュメンタリーで、事実に反した内容はまったくと言っていいほどないそうだ。
映画の中で菅首相は、福島第一原発の作業員に「命をかけて欲しい」と伝える。電源を消失し注水が止まった原子炉は、圧力が異常に高くなっていた。このままだと容器が爆発して核燃料が融解する。誰かが手動で気体を排出しないと、東京を含む原発の半径250kmが避難区域になる。そんな状況で発した言葉だ。
気体の排出はベテラン作業員が一人で行ったそうだ。作業時間は10分だったが、その間に許容値の100倍を超える放射能を浴び、作業員は病院に搬送された。結果的に一部の核燃料は融解したものの、一人の作業員が死を賭したことで、日本は中枢機能の喪失を免れた。
もし自分が「命をかけて欲しい」と言われたらどうするか。
それが家族を守るためなら、私は命をかけるだろう。戦時中も同じ状況だったと想像するが、家族は人が命をかける大きな動機になる。では、家族に危険がない状況だったらどうするか。その場合、動機は仕事に対する責任感とプライドしかないが、それだけで命をかけるのはなかなか難しい。
先日、北朝鮮がミサイルを発射し、日本の上空を通過した。もしミサイルが日本に落ちていたら、政府はどう動くのだろう。名古屋に落ちて家族が犠牲になったら、私は何をするのだろう。名古屋以外の場所に落ちて家族が無事だったら、私はどうするのだろう。答えを出すのは難しい。難しいが、映画『太陽の蓋』は考えるきっかけをくれる。
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