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辞書を編むということ『日本人の知らない日本一の国語辞典』

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20140405225551私は仕事柄、人が書いた文章を添削する機会が多いが、読んでいて一番気になるのは言葉の選び方だ。例えば「ことがある」と書くべきところで「ときがある」と書いていたり、「中央」と書くべきところで「真ん中」と書いていたり。選ぶべき単語は前後の文脈と全体の雰囲気から自ずと決まってくるが、その単語が頭に浮かぶかどうかは語彙力や読書経験にかかっている。

また、手書きの文字を見ると、その人の気質が大体わかる。丁寧に仕事をする人、ルーズな人、勉強をしてこなかった人、リーダーになれる人。目だけではなく、字は口ほどに物を言う。逆に、活字の文章から手書きの文字を想像することもできる。雑な文章、我の強い文章、論理的な文章、優しい文章。『日本人の知らない日本一の国語辞典』の著者・松井栄一さんは、間違いなく丁寧な字を書く人だ。

松井栄一さんは『日本国語大辞典』の編集者。日本国語大辞典の初版は1976年に刊行され、第2版は2002年に刊行された。初版は全20巻、第2版は全14巻、収録語数は50万以上。2007年には電子化もされ、現時点で日本最大の辞典だ。

言葉には生死がある。新しい言葉が生まれては消え、既にある言葉も進化し退化する。例えば「ナウい」は死んでいるが「ユルい」は生きている。だが「ユルい」もいずれ死ぬことが予想される。そのような時代を物語る言葉が載った辞書を、松井さんは「言葉のタイムマシン」と表現する。

辞書は収録語数も大事だが、最も重要なのは用例とのこと。用例は「その言葉の存在を証明し、使われた時代を示す。そして発音と表記の資料」にもなる。様々な文献から引用された用例があるからこそ、生きた言葉の意味が理解できる。用例の多い辞書を読むと、言葉の選び方にも磨きがかかるはずだ。

日本国語大辞典の初版は、編集に15年かかっている。松井さんはいつも手書きの用例カードを持ち歩いていたそうだ。収録する言葉を選んでは捨て、コツコツと用例をためて専門家と議論する。15年という月日は決して弛んでいたわけではなく、恐ろしく丁寧な時間が流れていたはずだ。

辞書は「編む」という言葉がよく似合う。『日本人の知らない日本一の国語辞典』を読むと、それがよく分かる。

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