自然と数学の関係を紐解く『黄金比はすべてを美しくするか?』
ピラミッドの高さ、モナ・リザの構図、ハヤブサの飛行コース、宇宙の銀河など。黄金比は様々な場面で登場するが、その信憑性を検証しつつ、数学と自然の関係を見事に紐解いたのが、マリオ・リヴィオの『黄金比はすべてを美しくするか?』だ。
黄金比を最初に見つけたのは古代ギリシャの数学者ユークリッド。
ユークリッドは線分を二つに分けた時、全体と長い切片の比が、長い切片と短い切片の比と同じになる比率を外中比として定義した。具体的には1.6180339...と続く無理数で、後にフィボナッチ数と結びついて黄金比と呼ばれるようになった。
フィボナッチ数とは、隣り合う二つの数を加えると、次の数と等しくなる数列。1,1,2,3,5,8,13,21...と順に続き、この隣り合う数字の比率は、なんと外中比に近づいていく。
黄金比は自然界に登場する。ユークリッドとフィボナッチも驚いているだろう。一見するとなんでもないような線分割と数列が、植物の葉のつき方から銀河の構造に至るまで、様々なものに影響していたのだ。
ここで一つの疑問が浮かぶ。黄金比は人間が自然の中にこじつけているのだろうか。もしくは自然の中に数学的な意志が介在しているのだろうか。本書は終盤で、自然と数学の関係性に迫る。
プラトン主義によれば、数学はつねにどこか抽象的な世界にあって、人間はそれを見つけるだけだ。ちょうどミケランジェロが、自分の彫刻は大理石のなかに初めからあって、自分はそれを掘り出しているだけだと考えたように。
マリオ・リヴィオの本は文字を追うだけでは終わらない。読者に考える機会を与えてくれる。そこが他のポピュラーサイエンスと一線を画するところだ。