運動会のカメラ設定

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 先日初めて、カメラの講師をした。相手は幼稚園の親御さん20人ぐらいで、運動会に向けてカメラのテクニックを勉強しようというイベントだ。イベントを企画したのは親御さんの代表で、私は講師として声をかけてもらった。

 運動会の撮影は本当に難しい。子供は意外と速く動くし、競技はあっという間に終わってしまう。だから事前に練習して、まずはフォーカスも露出も全て「オート」で連写してみる。ある程度オートで撮影できることが分かったら、本番も全てオートがいい。

 ただ、フォーカスをオートにすると子供にピントが合わない、もしくは露出をオートにすると子供がブレる。そんな場合は、フォーカスとシャッターの仕組みを意識する。

シャッタースピード

 シャッタースピードはブレに関係する。例えば冒頭の写真なら(実際は他の作例を使用)、背景のビルは手ブレを意識したシャッタースピードで止まるが、動いている車は手ブレだけを意識しても止まらない。

 手ブレを抑えるシャッタースピードはレンズによって異なるが、標準レンズなら「1/125秒」が目安になる。動いている車や子供を止める場合は、さらに速いシャッタースピードにする。

 具体的には、運動会ならシャッタースピードを「1/500秒」に設定する。そうすれば被写体ブレも手ブレも抑えられる。キヤノンなら「Tvモード」、他のメーカーなら「Sモード」で設定する。

 時間に分数が出てくると混乱する。そんな場合は、整数は数字が大きくなると遅くなる(1秒・2秒...)、分数は分母の数字が大きくなると速くなる(1/125秒・1/500秒...)と覚えるといい。

 シャッタースピードが設定できないカメラで、シーンのセレクトができる場合は、「スポーツ」を選ぶ。そうすると、カメラが自動でシャッタースピードを速くしてくれる。

フォーカス

 フォーカスは、「エリア」と「方式」の2種類の設定がある。

 「エリア」は、フレームの中のどこにフォーカスを合わせるか決めるもので、通常は次の3つの中から選ぶ。

①ピンポイント(一箇所)
②ゾーン(ピンポイントより広いエリア)
③ワイド(画面全体)


 「方式」は、フォーカスをどのように合わせるか決めるもので、通常は次の3つの中から選ぶ。

A. シングル
B. コンティュアス(追従)
C. マニュアル


 設定できるカメラなら、「③ワイド」と「B. コンティニュアス」の組み合わせがいい。コンティュアスの呼び方はメーカーによって異なり、キヤノンなら「AIサーボ」、他のメーカーなら「AF-C」。これで動いている子供をカメラが追い続けてくれる。

 ただ、コンティニュアスの精度はカメラの性能に左右される。練習したが上手くいかない、もしくはコンティニュアスモードがない。そんな場合は「A. シングル」 と、「①ピンポイント」か「②ゾーン」を組み合わせる。

 まずは「②ゾーン」で子供をフォーカスして、それで綺麗に撮影できれば問題ない。ただ、シャッターボタンを半押ししてフォーカスを合わせても、それから全押しするまでの間にフォーカスがズレてしまうことがある。その場合は「①ピンポイント」を応用した「置きピン」というテクニックを使う。

 カメラのフォーカスは、空間の中の一箇所と合うのではなく、距離で合う。だからシャッターボタンを半押ししてフォーカスを合わせた後、カメラか被写体が前後に動くとズレるが、左右や上下に動く分には大きくズレない。その仕組みを利用して、あらかじめ地面などでフォーカスを合わせておくのが「置きピン」だ。

 具体的には、最初にシャッターボタンを半押しして、子供が来るであろう地面にフォーカスを合わせる。次にシャッターボタンは半押しのまま、カメラを撮りたい高さに戻す。最後に子供がそこに来たらシャッターボタンを全押しする。これで理論上は確実に撮れるが、幼稚園児は予想外の動きをするので、「置きピン」は最後の手段としたい。

構図

 子供を撮る場合はカメラの位置を低くすると臨場感が生まれる。レンズ交換式のカメラやコンパクトカメラなら、自分がしゃがんでレンズの位置を低くする。スマートフォンなら通常はレンズが上のほうについているので、本体を逆さにして撮影すると、違った視点が生まれる。

 ただ、運動会は観客が多い。トラックの周りで先頭の位置が取れない場合もある。そんなときは手前の観客をあえてフレームに入れる。子供だけをクローズアップした写真もいいが、写真のストーリーは、周りにある物や余白で生まれることが多い。




 こんな内容を作例を使いながら説明したが、講義としての出来は70点ぐらいだった。実習も交ぜて、できるだけ個人のカメラ設定も見た。ただ、中にはシャッタースピードが設定できないカメラを持っていたり、スマートフォンしか持っていない人がいて、すべての人に満足はしてもらえなかったと思う。

 被写体ブレや置きピンの話は難しいので、理解できなかった人もいたはずだ。ただ、運動会で確実に撮りたい場合は、シャッタースピードとフォーカスの仕組みを理解する必要がある。理解できなくても、そのような仕組みがあることを知ってもらいたかった。知らなくてもスタート地点には立てるが、知らないと前に進めないのだ。