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『情報技術の人類史』を読まずして未来を生きるなかれ

Book


20140210211301


    紙にインクで記された八分音符や四分音符が音楽なのではない。音楽とは空気中に響く圧力波の連続でもない。レコード盤に刻まれた溝でも、CDに焼き付けられたくぼみでもない。聴き手の脳内に引き起こされるニューロンの交響でもない。音楽は、情報そのものだ。〜 ジェイムズ・グリック


1948年、AT&Tベル研究所のクロード・シャノンが、『通信の数学的な一理論』という題名の小論文を発表し、初めて情報を数学的な量として定義した。単位は0と1のbinary digit(二進数字)で、後に省略されてbit(ビット)と呼ばれるようになった。ジェイムズ・グリックによる『インフォメーション 情報技術の人類史』は、そのような情報単位の誕生、情報の起源、伝達手段の進化、最新の処理技術を、緻密にドラマチックに描く物語だ。


目次
プロローグ
第1章 太鼓は語る
第2章 言葉の永続性
第3章 ふたつの単語集
第4章 歯車仕掛けに思考力を投じる
第5章 地球の神経系統
第6章 新しい電線、新しい理論
第7章 情報理論
第8章 情報的転回
第9章 エントロピーと悪魔たち
第10章 生命を表す暗号
第11章 ミーム・プールへ
第12章 乱雑性とは何か
第13章 情報は物理的である
第14章 洪水のあとに
第15章 日々の新しき報せ
エピローグ


第1章の太鼓はトーキング・ドラムのことを指す。トーキング・ドラムはアフリカの打楽器で、音の高さと長さを変えて遠方まで情報を伝達する。つまり無線通信の起源だ。

第2章からシュメール人の楔形文字、バビロニア人の方程式、世界初の英語辞典、バベッジの階差機関へとテーマが続く。バベッジの階差機関とは、史上初めて機械に記憶力が授けられた歯車式計算機のことだ。

情報の歴史上、最も大きなターニングポイントは、第5章に登場する電信の普及にある。アメリカ大陸やドーバー海峡を電線で繋ぐことにより、モールス信号を使って瞬時に情報が伝わるようになった。地球上の時間と空間が消滅したのだ。

第6章以降、電話、Eメール、インターネット、ソーシャルネットワーキング、遺伝子、Wikipedia、Googleへとテーマが続く。

ニュートン、ファインマン、ゲーデル、ウィトゲンシュタイン、アインシュタイン、チューリング、ジミー・ウェールズ、エリック・シュミット、ドーキンスなど、名だたる人物のエピソードもはさまれ、物語は豊潤さを増していく。


    あらゆる生き物の中心部にあるのは、炎でも、温かな息でも、生命の火花でもない。情報、単語、命令だ。喩えが欲しいなら、炎や火花や息を思い浮かべてはならない。代わりにばらばらの莫大な数の、水晶の銘板に刻まれたデジタル文字を考えるといい。〜 リチャード・ドーキンス


DNAには60億ビットの情報がある。宇宙は10の19乗ビットで語ることができる。テキスト、写真、音楽、動画など、私たちはスマートフォンやインターネットを使って毎日ビットで情報をやり取りしている。だが、シャノンが定義したように、情報は本当にビットで計れるものなのだろうか。

『インフォメーション 情報技術の人類史』は情報を定義しない。

情報過多の現代、データをそのまま受け取って流されてはいけない。行と行の間、ビットとビットの間に情報を見出し、自分の頭で考えなくてはいけない。それが来るべき量子コンピュータの時代、つまりキュビットの時代を生き抜く力となる。

ハードカバーで500ページを超えるこの長編から、私はそんなメッセージを受け取った。

インフォメーション 情報技術の人類史(新潮社)Amazon / 楽天ブックス


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