ウイルスと遺伝子の関係を紐解く『破壊する創造者』

20141011160106ウイルスと聞いて思い浮かべるのはエイズエボラ出血熱コレラやインフルエンザなどの恐ろしい病気だ。時には急激に、時にはゆっくりと、人間の身体に深刻なダメージを与える。だが、『破壊する創造者』の著者はウイルスが存在するからこそ生物は進化すると言う。

たとえばエリシア・クロロティカ。

アメリカの東海岸に生息するこの美しい生物は、植物と動物の両方の性質を併せ持つ。幼生期に藻類を食べて葉緑体を蓄え、食べ尽くすと口を失い、その後は光合成で生きていく。変態の過程で藻類の細胞核から遺伝子を受け継ぐが、その運搬役を担うのが逆転写酵素を持つレトロウイルスだ。

驚くことに、このレトロウイルスは突如として破壊者になる。春が来るとウイルスが急増し、あらゆる組織に充満して細胞を破壊する。生きていくのに必要だったウイルスが、あらかじめプログラムされていたかのように細胞を一気に全滅させる。

進化は、自然選択や突然変異だけでなく、異種交配やウイルスなど様々な因子が絡み合う。ウイルスは太古から宿主と共生し、遺伝子レベルで影響を与えあってきた。天然痘ウイルスやハンタウイルスなどの人間を破壊するウイルスも、長い進化の歴史で見ると何かの役割を担っている可能性がある。

『破壊する創造者』を読むと、人間のゲノムにウイルスの遺伝子コードが組み込まれている事を肌で感じる。

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