なぜ高齢者はアクセルとブレーキを踏み間違えるのか

 高齢者による車の事故が後を絶たない。アクセルとブレーキを踏み間違えて、歩道や店舗に突っ込む。特に子供が巻き込まれるニュースを見ると、居たたまれない気持ちになる。

 高齢者がペダルを踏み間違える要因として、主に認知能力や判断能力の低下が上げられているが、果たして脳機能の低下だけが原因なのだろうか。また、本当に高齢者特有の事故なのだろうか。

 まず、踏み間違える年齢層について。

 これは確かに高齢者が多い。踏み間違えの発生件数を年齢別に見ると、若年者と高齢者が同数で最も多い。ただ、事故全体の発生件数は若年者が圧倒的に多いため、単純に同数ではない。事故原因の構成比を年齢別に見ると、高齢者の踏み間違えは若年者の2倍あるのだ。

 ソースはこちら。10年ほど前のデータだが、発生率はそれほど変わっていないはずだ。高齢者の人口が増えている分、事故全体に占める踏み間違えの割合は、以前よりも高くなっているかもしれない。

 また、上記のソースによると、高齢者と若年者では単純反応時間に差はないが、選択反応時間は高齢者のほうが遅いようだ。ブレーキだけ踏むなら差はないが、ブレーキとアクセルを選択するなら高齢者のほうが遅いというわけだ。だから脳機能の低下は一つの要因と言えるが、私はここにもう一つの要因を加えたい。

 それは「変形性膝関節症」だ。

 変形性膝関節症とは、膝の軟骨が擦り減ったり無くなったりして、膝に痛みや腫れをきたす関節症。重症になると骨が露出して、関節の表面がデコボコになり本来の滑らかな動きができなくなる。

 日本人は、すねの骨が内側に湾曲しているため、膝の内側の骨ばかり擦り減ってO脚になりやすい。そこから変形性膝関節症に発展するそうだ。背中を曲げてO脚で歩く高齢者を思い浮かべるとイメージしやすい。

 日本人の中に変形性膝関節症の自覚症状がある患者は1000万人いて、潜在的な患者は3000万人いると推定されている。そして年齢層は高齢者が圧倒的に多い。ソースはこちら。類似の症状として変形性股関節症も上げられる。

 ここからは私の推測だが、変形性膝関節症と変形性股関節症は、脚の内側への動きを限定するのではないかと考えている。自覚症状があってもなくても、外側に曲がった膝は脚の動きを制限するはずだ。

 通常、車のアクセルは右足の正面にあり、ブレーキは左内側にある。左内側のブレーキを踏むつもりが、無意識に正面のアクセルを踏む。脳の選択反応時間の問題以前に、そういった事象も多いのではないかと私は推測している。

 では、どのように対策すればいいか。まずは変形性膝関節症との因果関係を調べる必要がある。もし有意な結果が出るなら、今以上に変形性膝関節症の研究を進める。それと同時に車の制度も見直す必要がある。

 高齢者講習では、選択時間や認知能力のテストと合わせて脚の運動もテストする。また、事故は起こり得るものとして考えて、高齢者が乗る車には安全装置の設置も義務付ける。アクセルとブレーキの位置も見直したほうがいいかもしれない。昔からあるデザインだからといって、それが正しいとは限らない。

 とにかく、高齢者による子供の死亡事故は防がなくてはいけない。もちろん被害者は子供と遺族だが、余生わずかな加害者の気持ちを考えると、それはそれでやるせなくなるのだ。


関連書籍