人生の舵を切るとき - 映画『星の旅人たち』を観て

 私の父は公務員で、毎日夜遅く帰ってきて、休日も家で仕事をしていた。気分転換は晩酌ぐらいのようで、そんな人生は楽しいのだろうかと、子供ながら疑問に思っていた。

 そんな父を見て育ったせいか、私は大学を出ても就職せず、何年かアルバイトをしていた。結婚を機に会社で仕事をするようになったが、理想とされるレールからは外れてきたのだと思う。

 映画『星の旅人たち』が心に響いた。

 『星の旅人たち』は2010年に公開されたアメリカとスペインの合作映画。息子を山で亡くした父親が、息子の意志を継いでサンティアゴに巡礼する物語だ。撮影地は実際の巡礼路が使われていて、牧草地、山脈、川、寺院など、フランスとスペインの雄大な風景が楽しめる。

 サンティアゴの巡礼とは、キリスト教の聖地であるスペインのサンティアゴに向かって歩くことを指す。フランスのピレネー山脈を経由してスペインの北部を通るルートがメインで、全長は約900km。1日30km歩いても1ヶ月かかる道のりだ。

 巡礼路には宿屋が点在していて、そこで食事をしたり寝泊まりしているうちに、他の巡礼者と交流が生まれる。映画の中でも、息子の後を継いだ父親は3人の仲間と知り合う。父親は医師で、人生のレールを踏み外したことがない。最初はジプシーのような巡礼者と馬が合わなかったものの、次第に打ち解けて息子の思いを理解し始める。

 私は、子供を持つ身になってようやく父の思いが分かるようになった。自分が選んだ仕事の範囲で、精一杯努力する。それは自分のためでもあるし、家族を養うためでもある。いつの間にか私も、同じ道を歩いていたのだ。

 だが最近、もう一度レールから外れてもいいのではないかと思い始めた。会社という枠組みの中で頭をフル回転させるのではなく、毎日24時間、自分の関心事だけに没頭するのもいいのではないかと思い始めたのだ。

 日本には伊勢神宮熊野本宮大社を結ぶ熊野古道がある。全長約200kmだから、1日30km歩くと1週間ぐらいだ。バックパックに寝袋を詰めておけば野宿できるだろうか。ご飯はどうしよう。スマートフォンは要らない? 感じたことはメモ帳に? カメラの充電は? 季節は夏? 風呂は川? 帰りは電車?

 人生は短いながらも舵を切るタイミングが何回かある。映画の中の父親にとっては、息子が亡くなったタイミングだった。私にとっては今かもしれない。『星の旅人たち』は、進むべき道のヒントをくれる。


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