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ニュートンの恋人たち - まだ科学で解けない13の謎

Essay

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photo credit: c@rljones via photopin cc


2565年、彼は愛する彼女を失った。彼女はまだ若かったが、病いによる死の運命には逆らえなかった。カプセルの中で眠る彼女は透けるような白い肌をしていて、安らな笑みを浮かべていた。彼は宇宙に放たれるカプセルを見送った。まだ発見されていない地球外生命体が、いつか彼女の病気を治してくれることを願って。

20年後、彼もまた同じ病気で亡くなった。科学は癌細胞の不死性に延命の秘密が隠されていることを突き止めていたが、癌細胞を死滅させるほどには成熟していなかった。彼もカプセルで宇宙に旅立った。これまで2000万を超えるカプセルが宇宙に放たれているが、ニュートンの法則に従って軌道が計算されているため、衝突することはなかった。

2920年のある日、宇宙カプセルの監視システムが異常な数値を示した。カプセル番号10652874と25765093が、軌道を外れ始めていたのだ。年間で1万2800kmのずれ。カプセルの年間航行距離が1億5000万kmであることを考えれば微々たるものだ。ずれを引き起こしている力は地球の引力の100億分の1程度でしかない。だが、それでも現にずれは生じていた。

ニュートンの万有引力の法則は宇宙を支配していた。あらゆるふたつの物体のあいだには引力が働き、その強さはそれぞれの物体の質量の積に比例し、物体間の距離の二乗に反比例する。地球から宇宙へ放たれた物体は、この逆二乗則に沿って軌道を進むはずだった。

普遍と思われていたニュートンの法則に背いて、彼と彼女のカプセルは少しずつ軌道を外れている。まるで見えない何かに引っ張られるように。

あとがき

この物語は『まだ科学で解けない13の謎』に着想を得て書いたものだ。同書は量子力学者のマイケル・ブルックスによる変則事象の物語。軌道のずれは実際にある話で、第2章の「パイオニア変則事象」に登場する。

目次
第1章 暗黒物質・暗黒エネルギー
第2章 パイオニア変則事象
第3章 物理定数の不定
第4章 常温核融合
第5章 生命とな何か?
第6章 火星の生命探査実験
第7章 "ワオ!"信号
第8章 巨大ウイルス
第9章 死
第10章 セックス
第11章 自由意志
第12章 プラシーボ効果
第13章 ホメオパシー(同種療法)

変則事象とは「例外、異様、奇態、矛盾、逸脱、偏差、ずれ」を意味する。最先端の知識をもってしても解明できない科学の謎。その謎が解けるとパラダイムシフトが起こり、新しい思考の枠組みが築かれる。

そこに科学の面白さがある。

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