『重力とは何か』が名著である理由

20140923105125世の中には名著と言われる本が沢山あるが、誰かに勧められて読んでもピンとこないことがある。小説だったらオチが面白くなかったり、ビジネス書だったら中身がスカスカだったりと理由は様々だが、学術書の場合は難解さが理由の一つだ。

難解だと感じる原因は自分の能力不足によることもあるが、論理が飛躍していたり、具体例が悪いこともある。そんな中、本当に名著だと言える本に出会った。タイトルは『重力とは何か』。凄いのは、誰が読んでも重力が分かるように書かれているところだ。

重力の発生源はまだ特定されていない。重力波によって伝わると予想されているが、実際に観測されたわけではない。岐阜県神岡鉱山に建設されている大型低音重力波望遠鏡で実証できるとよいが、現時点では机上の理論だ。

では、本書で何が分かるのか。それは重力が自然界に及ぼす影響と、重力理論の発展の歴史だ。ニュートン力学から始まり、アインシュタイン理論、量子力学超弦理論まで。これらが易しく、それでいて知的興奮を感じるように書かれている。

その一端を紹介しよう。

こちらは月の引力の話。

地球の重力には、縦方向には物体を引き伸ばし、水平方向には押し潰す働きがあるのです。同じことは月の重力でも起きます。月が地球に及ぼす重力は、地球を縦方向に引き伸ばし、横方向に押し潰そうとする。地球の表面にある海水は、月の方向に沿って膨らんで満ちてゆき、それと直行する方向からは退いていきます。これが潮の満ち引きが起きる仕組みです。

こちらはGPSの話。

GPS衛星には三万年に一秒程度しか狂わない原子時計が搭載されています。しかし、どんなに正確な時計でも、相対論効果から逃れることはできません。それを考慮に入れて時計を補正しなければ、地上とのあいだに誤差が生じてしまうのです。まず特殊相対論によれば、人工衛星は動いているので地上から見ると時間がゆっくり進みます。(中略)一方、一般相対論によれば重力が強いほど時間はゆっくり進みます。

こちらは超弦理論の話。

現在わかっている素粒子には、クォーク、光子、電子、ニュートリノなど多くの種類がありますが、いくつものバリエーションがあるとなると、どうも物質の「基本単位」という気がしません。それこそ「皮」をもう一枚むけば、それぞれの素粒子に共通の基本単位がありそうです。そこで超弦理論では、すべての粒子は同じ「ストリング」からできていると考えます。

この素粒子の中に、重力波を伝える重力子があると考えられている。

本書では他にも、動く物体で時間が遅れる理由、光が粒子と波の性質を持つ事実、空間の欠損によって重力が働く仕組み、ブラックホールから光が脱出できない理由など、重力に関わる理論が丁寧に解説されている。

このような素晴らしい本が誕生した訳は、あとがきに要約されていた。

説明を簡単にするためにごまかしてはいけない。大切だと思うことはきちんとわかってもらえるように、少しぐらい話が長くなっても丁寧に書きました。(中略)そうして新しい考え方を理解したときに、世界の見方がこれまでと少し変わって見えるような気がしたら、私がこの本を書いた意図は達成されたことになります。

文字を目で追わせるだけでなく、理解させながら読ませる。非常に難しいことだが、本書は見事に成し遂げている。

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